【テンプレート付き解説】良いアーティストステートメント書こう! part 3
この小さなブログでロングヒットの検索結果とアクセス数があるのが、アーティストステートメントについてです。すでに二つ記事を書いて入るんですが、概念的な説明とか、細かな書き方講座的なことはまだやってなかったので、今回はちょっと力を入れて書き方についてやってみます。
過去の記事はこちら!
まずはおさらい
上の二つの記事と重複するだろうけれど、先にアーティストステートメントについておさらい。
アーティストステートメントとは、以下の内容論述している必要があります。
①作品がどんな内容を含んでいるのか (内容説明)
②作品にどんな美術的価値があるのか (価値解説)
③作品のコンセプト・概要について補足説明 (書いておきたい補足説明)
様々な文章があると思いますが、この3本立てくらいに収束すると思います。
そしてアーティストステートメントは、作家活動にとって必要不可欠。コンペやコンクール、助成金などの応募には絶対に必要です。特に現代アートでは、コンセプチュアルな要素が非常に大切なので、コンセプトを論述してあるアーティストステートメントが重要となります。 なぜかと言うと、「ステートメントが反映されたものが作品そのもの」なので、作品を見るときにセットで見るものとして扱われることが多いからです。 「作品単体で全部語れ」っていう日本的な感覚も分かるんですが、一見で全てを理解できないほどコンセプチュアルアートは難解になりつつあるので、数千の作品審査をしなければならないコンペ等では、ステートメントで中身を簡潔に評価されることがある、という事に留意してください。
基本的にはステートメントは、アーティストの人生を賭けた一貫性のある研究概要みたいなものであるべきで、作品ごとに用意された作品解説の文章ではないので注意。いろんな作品のバリエーションがあっていいけれど、ステートメントは一つが基本。
逆にダメなステートメントあるある第一位は「ポエム調」 第二位は「自分語り調」、第三位は「主観型」です。ステートメントは、学術的な美術的価値を論文するものです。つまり客観的な説得力が必要です。「自分はこう思う」は、真逆のこと。「私は…こう思う。」「私にとって…」で始まる文章は極力避けるべきです。ここまでは前回の二つの記事にまとまっていると思いますので、詳しくはそちらをご覧ください。
やっちゃいけない典型的な例は、
「何を」「どう」描いたかの説明をしている文章です。これはモチーフや技法、テーマ・世界観の説明文です。ある程度は必要なケースもあるので、これをステートメントに書いちゃいけないということではないですが、これらがステートメントの中身のメインになっては絶対にいけません。なぜかって?そんなの見たら分かるからです。
個人的な説明はなんでダメかって?
あなたの作品に興味があっても、講評する側はあなた本人に興味がないことが多いからです。「私にとって…」なんて教えてもらわなくていいです。こっちは聞いてません。
もう一点、自分はまだまだだから…とか、作品が溜まってから…とかっていうのは間違いです。今現在の自分のベストを出せばいいし、コンセプト、ステートメントは、後付けで書くものじゃないので、作品ができる前に本来あるべきものです。もしくは同時に深化させていくもの。
良いアーティストステートメントとは
日々たくさんのアートニュースに目を通しているので、気になったアーティストの作品や、ステートを読むことがあります。そんな中でいい文章だなと思う構成をまとめたいなと思うんですが…
まずは、
作品の学術的価値がどこにあるのかを説明していること。
このブログではたくさん説明していますが、美術は学問なので、美術作品として学術的な、学問的な研究の概要文を書くつもりで行くと良いと思います。美術の数千年の歴史の中で、数億数兆の作品が生まれてきて、その中で「自分の作品がどういった価値を持っているのか」を論述してください。
理路整然としていること。説得力があること。
上ですでに述べたように、「自分の主観に共感を求めるような」文章は避けるべきです。自分の中で完結している作品が日本に多いので「アートは自己表現。自慰行為だ」みたいなワードが生まれてしまいます。客観的な文章を心がけて、プレゼンや、論文概要のようなつもりで。たくさんの周りの人に読んでもらって、いろんな意見をもらうことが大切です。
具体的なテンプレート
そんな事言われてもどう書けばいいかさっぱり!という人のために… 完全に主観的なものですが、オススメのテンプレートを用意してみようと思うので、一度それに沿ってご自身のステートメントを書き直してみてください。皆さんのそれぞれすでにあるコンセプトに沿って当てはめて、内容を読み替えてください。文章はA4一枚に収まるようにしましょう。
参考にするためにすでに超有名なアーティストのステートメントを見てみるのは、あまりオススメできません。そういう方々のHPに載っているようなものは、本人が書いた文章ではなくて、美術史家の人が別な意図で書いているケースが多く、更に言えばすでに世界中の批評家がいたるところで解説してたりすると、もう自分のHPで書かなくてもいいよねってなってたりします。なので絶対的な客観視された(第三者が書いた)文章が載っているので、参考になるかどうかは精査して見てください。
1パラグラフ目から…
1. アプローチ先の源流を抽出する
問題提起っぽい感覚でいいのですが… コンセプトの中の矛先みたいなものを抽出します。例えば、
「現代人は…」
「美術史の中ではこれまで…」
「今世の中は…」
このような作品のアプローチ先に対してのエイムから文章がスタートすると、この文章の行き先がわかるので、これから来る次の文章が非常に読み易くなります。他の分野の学問を参照している場合もそこからスタートすると読みやすいでしょう。コンセプトのコアの部分から書き始めて、後から補足していく感じです。
2. 美術史の内容に触る
このブログではよく言及していますが、美術の学術的価値の多くを占める部分が史学的価値です。ですので美術史の価値がどれくらいあるのかという部分をしっかりと論述されていることは非常に重要なファクターです。
内容の触れ方が難しいというか、バリエーションがあるかなと思うのですが、今回はわかりやすい定番の書き方を挙げてみます。もちろんですがふんわりとした情報を入れるのではなくて、それぞれがちゃんと研究をして、引用もしくはアンチテーゼを謳うことをしないと、逆に「勉強不足で間違いだらけ」ってことになりかねないので注意。ここら辺は減点方式だと思ってください。ちゃんと正しい知識を書けて当然、書けていないと減点の一方。
まずは自分の作品の大きい意味での類似作品、作家、時代などを漁ります。人物などは正確に。英語表記だけでも問題ありませんが、例えばエミール・ノルデ(Emil Nolde, 1867- 1956)のような表記をします。どのエミールノルデさんかわかんなくなるので。
読み手はある程度美術史を熟知している人を想定していいので、事細かに全てを説明するのではなくて、「この時代の、彼の、この部分について言及している」がわかりさえすればいいです。全く知識がない人を想定して全ての内容を説明しないように。「んなこと誰でも知ってるから、無駄な文章書いてないで早く本題は入れや」って思われてしまわぬよう。
全体的な書き方をしては、
⑴ この時代は、この人は、こういうことをやろうとしていた。(前提・先行研究概要)
⑵ ただこれにはこういった部分が問題点だった、もしくは現代には当てはまらないetc. (問題提起)
⑶ だから現代ではこういうことが正解なんじゃないか。(提案、エイム)
⑷ こういう風にこれを引用することで、21世紀ではこういった美術的な価値があるんではないか?(解決・展望)
というような4段階で書くと分かりやすいかも知れません。
3. どのようにアプローチしたか
ここでは具体的な自分の作品についての話をすれば良いと思います。これまで論述したコンセプトをどう表現したかの説明です。技法の話や、制作背景などなど。もちろん無駄な文章を書かないようにして、シンプルであること、必要性がある文章で構成しましょう。
4. まとめのひと文
全体的なまとめとして、以上のことを踏まえてもう一度最初のアプローチ先について、自分の作品がどのような価値があるのかを書くと良いと思います。特に2022年現在にどのような価値があるのかという点をもう一度まとめたり、純粋に作品に対する思いなんかがあればちょっと書き足したり。最後のまとめにふさわしい1、2行を書くと締まると思います。
最後に
やはり作品のスタイルが千差万別なので、こういうブログでまとめるのは非常に難しいなと思います。ドイツの美大にいた頃はステートメントを書くワークショップとか、講義とかがあったので、色々解説されている内容を読んだり、他人のステートメントを講評し合うこともありました。
人数が集まればDiscordのコミュニティの方で、ワークショップをみなさんとやれたりしたらいいなと思うんですが、需要がどれくらいあるのか…
なんか上の2つの記事と書いてること変わってない気がして、意味あったかな…と不安だけれど、誰かの役に立ったりすれば嬉しいです。
僕なんかで申し訳ないなと思うんですが、Discordの方で個別でたまにメッセージをもらって、ステートメントの添削をお願いされることがあります。数多くなってしまえば大変ですが、時間が許す限りはお手伝いしますので気軽にご連絡ください。
ステートメントは、応募に落ちる度に何度も書き直して、翌年の応募に備えたりします。終わりはないし、どんどん変化していいし、そうあるべきで、たくさん書き直して、完成に何ヶ月何年もかかるものです。
初めから完成形を求めないで、少しずついいものに深化させていくのが正しい道かなと思うし、誰しも通ってきている道かなと思います。
ということで長くなってしまいましたが今回はここまで。
みなさんがいい文章が書けますように!
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Masaki Hagino
Contemporary painting artist based and work in Amsterdam and Cologne.
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