正しいアーティストステートメントの書き方

正しいアーティストステートメントの書き方

このブログの中で2位になってる、かなりのアクセス数がある「アーティストステートメントの書き方」の記事。やっぱり書き慣れていない人も多いんだろう、ということがわかったので、もう少し詳しく書こうかなと思いました。
あんまり批判はよくないなとも思うんですが、インターネット上に転がってる他の方のブログの「アーティストステートメントとは」的な記事を読んでみると、びっくりするぐらい統一して間違っているので、焦って急いでここで正したいなと思いました。

すっごい失礼だな、上から目線だなということは承知していますが、敢えて言うけれど、ドイツ美大で専門的な授業や講義を受けたし、本も山ほど読んで、公募展応募もたくさんしてきたし助成金もコンペ受賞した経験があるということで、理論的には正しいことをお伝えするので、どうかどうか間違った自己流アーティストステーメント講座を参考にしないでほしい、です。

あと、ポエムになってる人が7割。小説っぽいかっこいい日本語の言い回しではなく、どちらかというと研究論文の概要を意識すると作りやすいかなと思います。

なぜ間違ったアーティストステートメントが存在するのか

前提としてやっぱり私がアプローチしているのは、日本で広義化した「アート」ではなくて、「ART」なのでArtistの人たちへのアプローチであるわけで…少しそこらへんが別物なのかもしれない。という点は予めご了承ください。
簡単にいうと、この記事でも説明しているように、日本ではクリエイションとしての「アート」が普及しているので、実際の学問的な「ART」を行なっている人が少ないです。なのでそもそも作品に学術的なコンセプトが必要とされていないという点が挙げられます。ですのでみなさんArtiststatementを書こうとした時に「何を書けばいいんだ….」っていうことになって、結果的にこの記事を見ているんでしょう。もしあなたがやっている内容が「ART」じゃなければ、そもそも本当の意味でのArtist Statementは必要ないはずです。なぜならあなたはArtを扱っているArtistじゃないから。と思いました。
クリエイションとしてのアートを扱っている場合は、「作品のテーマ解説文」でいいのかなと思います。他のブログ等で解説されている内容が統一してる理由は、きっとそのテーマ解説文としては正しいからかもしれません。なので西洋で扱われているARTに対しての、Artist Statementを書きたい場合はここで書いた内容を参考にしてほしいと思います。

ハイカルチャーだったARTが、サブカルチャーになって広義化して庶民に普及した時に、アートになったと同時にやっぱりArtist Statementもアーティストステートメントになったんだなということがわかりました。なので多分ArtistStatementとアーティストステートメントは別のものかも。


Artist Statementとは!!!!!!!

Artist Statement は、Artistのメインの作品群に共通するコンセプトなどを「論述する」ものです。つまり作家の思いや、作品のモチーフなどのテーマを解説するものではなくて、その作品のどのような美術的な価値が、作品の中にどう存在するのかという部分を文章で解説するものです。上で挙げた部分に美術の価値を説明する内容が一つもないのが見てわかると思います。

いいですか?もう一度言いますが、ASで一番大切なことは

作品が保有している「美術的な価値」を論述する


という点です。これができていないものは、Artist Statementとは呼ばれません。逆説的に作品に学問としての美術的な価値を保有をしていない作品は、美術と呼ばれません。美術的価値の一つは「(美術)史学的な学術的価値」です。ここら辺の記事はたくさん書いてきたので、初見の方は他記事をご覧ください。


論述するということは、ざっくり言えば学術的なアプローチのもと、「客観的な論証や根拠を用意しながら説明する」ことです。自分がこう思う。自分にとってはこうだ。みたいなことはめちゃめちゃ主観的です。なのでその主観的な自分語りを読まされてる身にもなってください。どうでも良いです。作家の解説文は別にあって、気になるアーティストがどういうつもりで作品を描いているのか知りたくなる。みたいなことはあるでしょう。ただだからそれはArtistStatementではねぇ!!!ので、混ぜない。


よく見かける間違っている内容

どのブログが間違ってる、みたいなことはさすがに書けないのでやんわりと。ネットでいくつか見て共通して間違っている内容を箇条書きにします。共通していることは「作家の主観」で成り立っている文章です。


・アーティストの自己紹介文
・その作品群を描こうと思った理由、制作動機*
・作品への思い
・今後の展望



別に上のことが含まれていること自体は問題ではありません。多少くらいは文章の中に含まれていても良いでしょう。その作家の大事な部分の可能性もあるので、全てを否定するつもりはありません。ただそれらだけで構成されているものは、決していい文章であったとしても、決して作家にとって大切な文章であったとしても、「Artiststatement」とは呼ばれません。おそらくそれは「作家とその作品にまつわる解説文」です。それが悪いという話では全くありません。ただ言いたいことは、それはASじゃない。ってことの正誤判定です。
特に自己紹介とか展望とか、思いとかは必要ないです。作家にとってこのモチーフがどういう意味を持つとかもいらないです。

ただ、*を打ったのは
作品の内容が、作家の思想や、ストーリーをメインとしている場合は、その作家の制作動機や、モチーフへの思いなどが作品のコンセプトそのものになりうる場合があります。そういった場合は、その内容をできる限り美術史や別の学問などに擦り合わせて論述することをオススメします。少し後付けではありますが、これで美術的な価値を生み出すことも可能かも知れません。
技法の説明も、見たらわかることを書く必要なんてないです。「0.3mmのペンを用いて、細かい線で…人間の脆さを表現してる。」みたいな意味不明なこととかもいらないです。あなたがなんのペンを使ったかなんてどうでも良いです。ただ、作品のコンセプトを表現するにあたって、技法の持つ効果を著しく利用している場合は、その説明がある方が良いでしょう。


間違った例と
後付け的に、美術的価値を見出す方法

長々と説明しましたが、そうはいっても書きたいよねアーティストステートメント。本物かどうかなんてことはこの際置いておいて。
ここからは良い悪いは置いておいて、もうとにかく自分もアーティストステートメントっぽいものを書きたい!個展とかする時に必要だし!良い感じっぽいものの書き方を教えてくれ!っていう人用。
こういった文章を書くためには、少なからず勉強しなければ、研究しなければいけません。まずはその覚悟と時間を用意してください。

改めて言いますが、「主観的な内容をあまり書き込まない」ことが大切です。書くんだったら主観的な部分だということをはっきりと伝えてください。絶対ダメってことはもちろんないのですが、そればっかりでは美術的な価値が低くなってしまうだろうなと思います。



まず方法の一つは、美術史になぞらえることが手っ取り早いです。
例えば「花」をテーマに絵を描いている人。

間違った Artiststatementの例を。

「私にとって花は….。(主観) 花の美しさは、日々に彩りを与えてくれて(主観)….。人間にとって花とは…と、私は思う。(主観)」


よく目にする。
私はこう思う。っていうなんの根拠もないことを、それっぽく書いても論述したことにはなりません。人は…とかって始まる文も多いですね。確証が必要な内容を、さも当然、人間とはそういうものだという書き方はやめましょう。
哲学的な内容を持ってして、私はこう考えるということなら良いと思いますが、ただの思い込みや、私がこう思ってるみたいなことは、説得力を持たせることが必要です。普遍的な誰もが納得するような言い回しをすればある程度回避されることもあると思いますので、書き方を考える必要があるかも知れません。


例えば花をモチーフにしている場合は、史学的な内容を引っ張ってると、
・過去どういう作家が、花を同じように描いていたか。
・時代的な内容について触れる
・2021年の今、同じように花を描くことの価値はどこにあるのか。
みたいなことを書くことができます。日本と西洋の比較なんかもできます。この時代ではこう描かれていた花、その存在価値と、今あなたが描く花の持つ意味の違いだとか。

ドイツ表現主義で花を多く描いたエミール・ノルデ、ポップアートを牽引したアンディ・ウォーホルがシルクスクリーンで用いた花々。それら二つは全く別の扱い方をされています。ではあなたはこれまで数千年、数百年の絵画の歴史の中で、こんなにも花が描かれてきたのにも関わらず、なぜ今もまだ花をモチーフにしているのか?
その部分が知りたいです。それを説明してほしいです。
どんな普遍的なモチーフであっても同じです。「自画像」であったり、「心象風景」でも同じ。
例えば「ゴッホはこういう自画像を描いていた」….「だから私はこう描く」も書き方を間違えれば、ただの意思表示であって主観止まりになるので気をつけてください。

こう描きたい。
こういうことを表現したい。
〜したい。は意思表示か願望であるので、それもめちゃめちゃ主観です。

史学的価値っていうのは、わかりやすくそして大きな要素を持つので、いつも例に使っていますが、史学的な部分だけでArtistStatementは成り立ちません。もちろん史学的価値=美術的価値でもありません。ただ必要不可欠だし、大きな要素であるだけです。
それを軸に、自分はどういう部分に作品の美術的価値を見出しているのかを記述していきます。構図だったり、色彩だったりはなぜそうなのか?それはコンセプトを表現するにあたってどんな効果を与えているのか?
文章のまとめとして総括的に、自分の作品はどういう価値があって、何を表現しているのか。コンセプトにまつわる内容を肉付け、もしくは削ぎ落として行く作業が待っています。研究は続くだろうし、ASはどんどん書き直して良くして行く必要があります。


あと基本的な論述文の書き方ですが、過去の人物名を書く時は
エミール・ノルデと書くのではなくて、エミール・ノルデ(Emil Nolde, 1867- 1956)と書いてください。こういう論述文の書き方がわからない人は、その基本的スキルが足りていないことが多いので、まずはそこを勉強しましょう。

主語が足りてないとか、文章が小説っぽく純文学っぽい文体になってるとか。論述文、エッセイっていうものは、説得力を持たせることが大切であって、文章としてもエモさとか日本語の素敵感みたいなのは不必要です。そこらへんも気をつけましょう。

誰に向けて書くのか

最後に。書く内容によって、ターゲットが見えていないと、どこらへんまで詳しく書く必要があるのか?という疑問い行き着くと思います。文章の文字数とかにも影響が出てくるので、ここら辺は重要。
まず史学的な内容に絡めて書くのであれば、とにかく美術史を大学で勉強したことがあるような、美術評論家とかKunsthistorikerとかが読むことを想定してください。史学的な当たり前のことをつらつら書く必要はなく、一文さらっとで良いです。「今から私はこの点を話すにあたって、この時代でこういうことをしたこの画家をピックアップします」ということがわかれば良いです。問題なのはそのあと、あなたがその作家のどの点について、自分の作品の研究と照らし合わせているかという点なので。
全く説明をしないのも間違っていると思うので、引用しなければならない部分はしっかりとしてみると良いかなと思います。


例えば子供が書く読書感想文って、ダメなやつの典型で「その本のストーリーをずっと解説しちゃう」っていうのがあるじゃないですか。それと同じ。有名な本で読書感想文を書くにあたって、話のストーリーなんて説明してもらわんで良い。ってなるのと同じです。


詰まるところ、ステートメントでは、あなたの研究の概要を説明したものを読みたい。
研究がないんだったら、それは最初に伝えた通り、ARTとは呼ばれないものであることが多いと思います。なのでArtistStatementとは呼ばれない。ということに繋がるのかなと思います。

あなたがやろうとしていることは、
クリエイションとしてのアートなのか、研究がある学問としてのARTなのか。
作品紹介文としてのアーティストステートメントを書くのか、
美術的な価値を論述するArtist Statementを書くのか。

何を目的として、何のために、何を伝えるのかを意識すると、苦しむ部分が減るのかなと思います。


書き方のまとめ

これまでつらつらと書いてきましたが、言葉で説明しきるのは難しいですね。というのもケースバイケースでいい文章もあるので、これがダメだ、ということを書いてきたけれど、解釈の仕方でいいケースもあれば悪いケースも出てくる気がしています。
なので振り返って見てよく出てきそうな質問を事前に回答してみましょう。


・作品への動機を書いてはいけないのか?
その動機というのが作品の核となるコンセプトに必要不可欠な場合は、書くべきです。それ以外は別に必要ないかなと思います。テーマとコンセプトは別物なので、その話は別の記事でやっていますので、ご一読ください。
「書いてはダメ」というよりは、「そんなパーソナルなことよりも、もっと大事で、書くべきことが他にある」と考えてください。

・作品の技法を書いてはいけないのか?
上でも軽く説明しましたが、これも作品の核となるコンセプトに必要不可欠な技法であれば、説明があった方が良いと思います。どういうことかというと、普遍的ではない特質すべき技法や素材を用いていて、それらがもたらす効果というものが、いかにコンセプトを表現しているのか、ということを論述することは大切だと思います。

私の場合は、キュビズムに見られた「多点透視図法」に対して、独自で研究して作り上げた「多重遠近法」というものをドイツの大学院で博士論文で研究発表をしています。その技法にはワックスを用いるので、この段階で、私のArtistStatementでは、キュビズムからくる遠近法の史学的価値を説明しつつ、技法である多重遠近法を解説することになっています。コンクール等、面接などではこの技法について100%質問が飛んでくる部分なので、簡単な解説を記述しています。

常に説得力と、俯瞰的な書き方を意識するのが大切。

透明水彩を水で薄めて描いている。この薄さと広がりが「心の儚さ」を演出している。みたいな、話の前後の関係性の確証が全くなされていないポエムみたいな文章をよく見かけますが、できるだけ理路整然とした言い回しを心がけるといいと思います。