【制作裏話➀】来週から始まる展示のインスタレーション作品のきっかけ

【制作裏話➀】来週から始まる展示のインスタレーション作品のきっかけ

note (https://note.com/masakihagino_art)からの転載です。時系列など少しずれております。

なんか本当に講義系?の文章が伸びるからといってそういう文章をTwitterXでは書いていたけれど、わざわざメンバーシップを作ってまでクローズドのコミュニティを作ろうとしているので、そんな話ばかりじゃなくていいんだ!と再認識したら、書きたい文章というのがたくさん出てきた。

なんだ、こういうのでよかったのか。

と、自分で好き勝手運営しているのに盲目になっていた。いや、読者のみなさんがこういうのを読みたいのかはちょっとわかんないけれど… ぜひコメントください。でも今回は展示前なので公開記事にしようかなと思っています。


今回は1月19日から大阪の所属ギャラリーKenFineArtでの日本帰国後初個展としてやるインスタレーション作品についての話をしよう!

インスタレーションを作ること

これまで絵画がメインで制作をしてきて、いろいろと研究を重ねてきたけれど、やはりインスタレーションに対しての研究やらなんやらの見識の在庫というのが自分の中に少ないことが不安だった。

シンプルに現代美術作家としては、まず自分がやろうと思っていることをいろんなメディアで検索をかけるべきだと思っていて、これはなぜかというとシンプルに「世界中のだれかが先にやっていないか」ということをチェックする必要があるからだと思う。
一番楽なのはPinterestかなと思うけれど、あとは一日中Instagramで検索をかけまくるとか、Webでもなんでもいいんだけどとにかく素材からアイデアからモチーフから何から何までまずは検索をかけることが大切だ。
マイナーなどっかの無名作家なまだしも、有名な作家がそれをやってたりなんかしたら「知りませんでした」では済まされない、「パクった」「盗作だ」など面倒なことになる。いやほんとに、知りませんでした、では済まされない。知らないのはお前の無知と努力を怠っただけのことで、信用と信頼はガタ落ちになる。

インスタレーションを作ったことがないわけではもちろんないけれど、やっぱりまずはたくさん見て勉強をしようとまずは思った。美術の本を読み漁ったり、有名な作家の過去の作品とかを片っ端から見た。見た見た見た見た見たそれはもう見た。

派生形でありたい

インスタレーション作るといっても、もちろんコンセプトは今までと一貫していて、派生形にとどめておくのは絶対条件でした。Masaki Haginoの作品だなってちゃんとわかるように、絵画から物体に変わったとしても、インスタレーションになったとしても、なんになったとしても、コンセプトは同じであるべきだと思う。

インスタレーションを作ろうと思ったといったけれど、そもそも日常的に作品のアイデアは溜まっていっていた。メモ帳には20作品分くらいのアイデアがちゃんと形になったりしている。空想上でだけれど。

でもその空想上のアイデアだけれではどうにもならなくて、プロセスとしては、やっぱりちゃんとコンセプトに寄り添わせるってことが大切かなと思う。簡単に言えばちゃんとアイデアだけでは浅いままだから、深い作品にするためにコンセプト(修士論文まで書いたくらいには研究している)に当て込みなおして煮込みなおすようなそんなイメージ

今回の作品の出来上がり方

“Deconstruction of Painting” (仮)

展示タイトルになっているこのタイトルを、この作品につけるかどうかはまだ決め切っていないので、(仮)にしておきます。

この作品は20㎝弱の試験管を10本横並びに壁に設置する予定です。ちゃんとした作品の写真は、インストールが終わってからになるのであとあとですが、これが10本並ぶというだけの作品。

中にはそれぞれ「絵画を構成するマテリアル」を入れてあります。木材(木枠)、製麻(キャンバスの元)、牛膠、木炭、ペインティングオイル、黒、白、青、マゼンタ、黄色の5色のピグメント(絵の具の原料)。

私の作品のコンセプトを細かく解説するとすごく長くなってしまうけれど、主観性という哲学の中に出てくる考え方が軸になっていて。詰まるところ「人によって見ている世界が違う」ということ。これはいろんな分野で説明ができて、目の構造や細胞の数が人それぞれ違うので、本当に単純に人それぞれ見ている色が違います。これは医学とか細胞学、脳科学の話だし、ゴキブリを見て可愛いと思う人も、気持ち悪いと思う人もいる、というのは心理学などでも説明できます。

この考えをいろいろ絵画と鑑賞者と作家の関係性に落とし込んで考えてきました。単純に言えば、画家が一生懸命色を練ってこだわり抜いた色や構図なんかも、人によって見えている色が違うんだったら、もう色なんて最初から適当でよくね???的な、極論に振って考えたりもしました。どう描こうかどう配置しようかなんて脳科学的には情報でしかなくって、その情報伝達はいろんなところで影響を受けて。つまり絵画を見ることによって入手したいろんな情報というのは人それぞれ主観的で、ごちゃごちゃになっててもう分解されまくって破壊されまくっているよね、ということ。

そういうことで、作品を作るときには
どうやって絵画を、鑑賞者の脳内でではなく、こちら側で分解・抽出して、再構成するのかということを考えてきました。

ただ絵画の構成を分解するような作品というのはこれまでいろいろあったけれど、脳内でどうやってとか、哲学上ではどう扱われているのかとかっていうことを考えるのがすごく難しい。
そんなときにJacques Derrida (ジャック・デリダ)のDeconstruction(脱構築)という内容を思い出した。ドイツでの哲学の授業で取り扱ったけど当時の自分にはあまり刺さらなかったらしい。
再構築するということ、脱構築するということは似ているようで違うのだけれどそこらへんは別の機会にしよう。

つまり、作家 ー 作品 ー 鑑賞者というこの三角関係性を二項対立x3と考えたときに、脱構築を3度考え直せばいいのかなあと、哲学初心者の私は思った。

手始めに
まずは絵画を構成する要素をどうやって分解・抽出するのかを考えはじめた
 

絵画を構成する要素を
どうやって分解・抽出するのか

まず考えるところは、絵画を構成する要素とはなんなのかを考える必要があった。作家の技術なのか技法なのか、作家が見た景色なのか、脳の電気信号だけなのかとかいろんなところから見つめなおしてみた。

いろいろアイデアを出したんだけど結果としてまず一つやりたいことは、シンプルに絵画を分解することだ、と思った。
絵画を分解するという作品は確かにいくつかあったように思う。これは「分解」という概念の違いでアウトプットは大きく変わってくる。切り刻んだ人がいたり、溶かしたり、燃やしたりする人もたくさんいる。
多くは作家の見た景色が描かれている絵画に対して、作家の記憶の朧気さとかけ合わせたりなんかも。

いろいろ頭の中でうろうろとしたけれど、結局まずは絵画の分解という考え方をシンプルにしようと思った。「脳内で結局再構築される」ということを念頭に置いておけばどれだけミクロに分解してもいいなと思った。
分解して、鑑賞者がちゃんと脳内で再構築できるように、抽出をするという意味での分解だ。

ということで「絵画を構成する要素」を、まずはマテリアルの段階から考えることにした。それがこの試験管の作品の出発点だった。

考えなきゃいけないことは
まだまだあった

作品の大外が決まった後は、どのマテリアルにするかということを決めようとした気がする。分解といってもどの部分までを見通さないといけないなと思う。例えばだけど
描きあがった絵画をミキサーにかけるとか
絵画を燃やした灰を集めるとか
水の中に漬け込んでみる水槽ごと展示してみるとか
絵画を破壊してみる方法は次々と出てくるんだけれど…

分解となると
目止めをしないままの麻キャンバスで描きあがった絵画を、縦糸と横糸をほどいてみるとか、レイヤーごとに描いた絵画を、最終的にレイヤーをばらして展示するとか。ガラスのようなレイヤーを重ねて兼ねて、最終的にはリヒターのガラスの作品みたいに並べてみるとか。

分解ということについてもいろいろとアイデアは出しては、違うなあってことを繰り返した。

結局絵画を構成する要素として、製麻について思いついたり、ピグメントについて考えてマテリアを選んだわけだけれど、ここまで思考をまとめるのとか調査に結構時間がかかったように思う。油絵具のもとになるピグメントにしたけれど、もっと言えば粉末を選ぶ前に、普通に溶かれたもの(絵の具の状態になっているもの)を瓶詰にすればいいかもなと思ったりもしている。

ピグメントもどんなものにするのか、どの時代まで戻って絵画の構成を考えるべきかとか。油絵なのか、岩絵の具なのかでも違うし、例えば昔の絵画はフェルメールの耳飾りの少女でもわかるけれど、群青色をラピスラズリで作ったりしていたわけだし、染色のことを考えると日本だったら十二単の最上の色は紫だし、それは確か希少は貝からごくわずかに取れるものだったりする。ちょっと今ぱっと思い出せないけれど。atode.

十二単について いわゆる十二単は、近世からの呼び名であり、正式には、「裳・唐衣」「唐衣・裳」と呼ばれ、9~10世紀頃は、裳を着けてから唐を kyoto-kyuteibunka.or.jp

という色の分解のことを考えたりすると、それだけでも結構な思考の行き来があった。紆余曲折あってやっぱり順当に油絵のピグメントを考えることにして、あとは色を考えなければ。これも、自分の作品によく使う色をカラーピックしてみることも考えた。そうなればさっきも書いたように、粉末のピグメントではなくて、自分がよく使う油絵具を何cc分か用意して瓶詰でいい気がしていた。
そんな紆余曲折がまたあって、色の四原色ということにしてCMYKに行きついて…
ネットで注文しようかと思ったけれどそもそも色をこだわるべきな気がしたので、東京出張に合わせて天王洲にあるPigmentTokyoさんに行くことに。

PIGMENT TOKYO – 顔料・絵具・箔・墨など画材の通販サイト 画材の専門店PIGMENT TOKYO(ピグモントーキョー)の通販サイト。水彩・油彩/日本画・西洋画の制作に使う、顔料・絵 pigment.tokyo

ピグメントを眺めること1時間。何度も色を選びなおして白を入れた5色を決め切った。
最初に色なんて結局人それぞれ見え方違うんだから、なんて言っておきながらこだわることにして、あーでもないこーでもないを繰り返した。
私は色を細かく見える階調が広い?ので、(そういう色識別テストみたいなのをやったことがあって、研究員の人に驚かれるくらいだった)こだわり始めたらもう大変になることは目に見えていた。しまいには電球の色が気になって、自然光に移って、という店員さんに迷惑をかけてしまった…

そこでは他にも質のいい画材を扱っていたので、綺麗な膠も購入した。話を聞くと手仕事で作ってもらっているらしく、珍しいものだそう。

という感じでどんな素材にするのかを決め、そしてその素材の詳細を細かく設定していったのだ。何でここまでこだわるのかってことは言わずもがな、コンセプトを具現化したいということなんだけれど、理路整然と論理的である作品でありたいと思っているので、こんなことになる。
絶対誰も気づかないし、絶対誰も気にしないかもしれないけれど。
作家だけは気にしておかないといけない気がする。単純に「こだわり」という4文字で済ましてほしくなくて、これはもうなんというかプライドとか、そういうことでもないんだけど、なんだろうか。どれか適当にしちゃうと、これまでの人生で積み重ねてきたものが全部適当になっちゃう気がするからというそんな変な意地みたいなものかもしれない。

とはいえ適当なところは適当でもいいと思っているし、やっぱりコンセプトにどこまで影響を受けるのかどうかの部分だけはしっかりとしたいなと思っている。

素材を何に入れるのか問題

次の問題だ。
集めた素材10点を何に入れるのかということ。これは本当に本当に悩んだ。正直に言えば似たような作品はあって、ちょっと困っていた。別にその人の作品に影響を受けたということではないと断言できるけれど、記憶の端っこにあったせいなんじゃないかとか、自分を攻め立てて苦しくなった時期もあって。
それならもうはっきりオマージュなり引用なり影響を受けているという方がいいから、どうしようかなと今でもそれは悩んでいるわけだけれど…

とにかく素材を何に入れるのかを考えるのは大変だった。ガラスなど透明がいいなと思っていたけれど、ガラスの箱なのか、ガラスの瓶なのか。瓶ならどんな形状なのか、どうやって展示するのか、ボックスの上か、床の上か、壁に固定なのかで形状も見せ方も変わってくるからだ。
コンセプトにさらに一枚乗せようと思ったら、脳に関係するものがいいか、と思った。医療に使われているものを使ったらどうだろうか。例えば血液のパックとか、オペに使いそうなものとか。

そんなことをずっと調べたりする毎日で、作品は一向にできてこない。これがまた辛い。絵を描いているときは毎日完成に向かっていて進捗があって、これまでの実験結果とかたくさん研究してきたからこそ進んでいける実感があるけれど、こういう作品に関して一から作ろうと思うと、何もできあがってこない毎日で、インスタレーション作家って大変だな…と尊敬の眼差しをしつつ毎日ベッドから出ていた。https://note.com/embed/notes/n9616986a29d7

これもまた紆余曲折あって、分解とかミクロの話とかっていうのは実験色が強いことから、最終的には試験管にすることにした。キャップの部分はコルクなのかどうなのかとか、ガラスなのかプラスチックなのか、長さはどうするか、どうやって展示するのかとか。その後も細かく考えることは尽きなかったけれど。

こうしてこの作品は出来上がりました。
シンプルなレディメイドの作品をつくるというのはやっぱり度胸がいるなと思う。これまでのインスタレーションの作品は、結局映像系を使ったり、自分の絵画を使ったりとか、そういう意味では完璧なレディメイドのみでやったことは全くなくて。
こうやってしてみるとやはりデュシャンは凄まじいなと思う。いやあそこまで振り切っていたらドヤ顔して殴り込みにいくくらいのテンションだったかもしれないな。

作品を作るまでの葛藤とか思考をまとめてみました。
残りの作品についても、同じように文章にしてみようかなと思います。面白かったなと思ってくださった方はいいねや拡散手伝っていただけると助かります。

Masaki 

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Masaki Hagino
Contemporary painting artist based and work in Germany and Japan .
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