私が海外でアーティストとしてスタートアップできた理由 part 2

私が海外でアーティストとしてスタートアップできた理由 part 2

前回の記事が長くなってしまったので、ようやくの本題はこの記事から。
実際に私が実践したことと、他のアプローチ方法について。

アーティストとしてスタートアップできたきっかけ

よくいただく質問「どうやってスタートアップできたのか?」。まず最初に私がアーティスト活動を始めたのが2014年です。活動に必要だと思った

・メインの作品シリーズ(上に挙げた自分の強みが見て取れるもの)
・作品のポートフォリオ (プリント版とpdf版メール用)
・ポートフォリオウェブサイト
・CV (アーティスト用の展示歴、学歴、受賞歴が載った履歴書)
・コンセプト文章

などがようやく揃ったなと思った状態がスタートラインです。(上の5つがない人はまず作るところから始めてください)
そして私の活動の転機になったのは、上の3つを用意した状態で、小さなアートフェアに出展したことでした。

ドイツだけではありませんが、今世界中で新しいアートフェアが乱立しています。正直にいうとアートがどうこうなんて何にも知らないオーガナイザーが、お金になると踏んで始めたものももちろん多いのですが…
そもそもアートフェアというのはギャラリーのみが出展できるものでしたが、小さいものだとアーティスト個人で出展できるようなものが多いです。もちろん出展用も数万円からでお手頃。最初のスタートアップとしてはかけてもいいリスクだと思います。もちろんアートフェアは作品販売がメインの目的ですが、蓋を開けてみるとそうでもありません。
たしかに準備にかかるお金と時間。旅費に、高額な出展費用。元を取りたいと売れる売れないに目が行くものですが、大切なことはもちろん多くの人に見てもらえるということです。
アートフェアのレベルや場所によって来場者のレベルも数も変わって来ますが、言えることは少なくとも数百人数千人が数日間で訪れるということです。
そして、ギャラリーを経営していて、新しいアーティストを探してるギャラリストがその中に紛れていてもなにも不思議ではありませんよね。 そういうわけで私は幸運にも作品が売れ、そして蓋を開けて見れば3つのギャラリーから声がかかりました。今のメインギャラリーはそのうちの一つです。

日本では契約型ギャラリーや画廊の数が東京を外すと圧倒的に少ないです。結果多くの人が貸しギャラリーなどで展示をすることになると思いますが、結局友人知人が足を運んでおしまいになってしまうことが多いのではないでしょうか。契約型ギャラリーを捕まえて展示をするのなんてもっとハードルが高いわけです。さらにこと海外となると自分で集められる来場客数なんてたかが知れています。おそらくツテがほとんどないのでしょうから。
そういう状況下で、一方アートフェアは、出展すれば無条件に人が訪れます。たった4日間で数千人です。少しお金がかかるとは言え、非常に効率がよく手っ取り早く、効果が期待できるはずです。
ただ全て自分で交渉して売買をするため、ドイツ語は必要でしょう?といういつかの記事に繋がったりします。もちろん税金の手続きやいろいろな知識が必要です。

そのあとは、そのギャラリーで展示をして、個人でもギャラリーを通してでもアートフェアにも出展して、露出が増えることでまた別のギャラリーからオファーがきて…
という形でいろいろと繋がって今の状態に至ります。

 

ギャラリーに直接連絡を取ってみること

もう一つ。 みなさんがギャラリーを捕まえたいと思った時に浮かぶこの方法。ギャラリストが開いた講演や大学の講演なども聞いてきました。
実際に私も過去に連絡を取りまくって、アポを取って、直接作品を見せに歩いて、展示機会を手に入れたこともありました。

ですが実質、期待するほどの効果がないと思います。詳しくいうと、まだスタートアップできていない状況で、これをやるのは効果が薄いのではないかなと思いました。そしてそれで捕まるギャラリーはあまりいいギャラリーではないのかも知れないという懸念があります。
理由は、ギャラリーにそんな暇がないという単純な理由が大きいです。名がある、または露出が多いギャラリーには毎日世界中のアーティストから数多くのそんな感じのメールが届いてます。そして私の契約ギャラリーもそうですが、翌年まで予定が詰まっています。契約アーティストも空きがありません。そしてギャラリストはアートフェアや別のギャラリーの展示など、作家を自分の足で、目で探しに行っています。

裏を返せば、メールで連絡取ってオッケーがもらえるギャラリーは、あまりいいギャラリーではないのかも知れないということです。例えば何度か会って話が通ってたり、足を運んでどういうギャラリーか知っている。という状況では全く別ですが、展示機会を求め手当たり次第にギャラリーにメールを送るのはあまり効果がないように思います。

もちろんそれでもいろんな可能性のために試してみることは大切だと思います。その際には「コピーメール」みたいな形の文章は避けてください。Bcc.で実はいろんなとこに同時に送ってるんだろうなーっていうのが一瞬でわかるような文章は、必ずと言っていいほど読んでもらえません。そんなメールが山ほど届くからです。そしてやる気がないのが見え見えだからです。実際に講演で聞いたギャラリストに同じような質問をしてみましたが、結果基本的にはマネージャーやアシスタントが処理するため、そのようなメールは即削除だ。ということでした。
個人的な宛名、メールを送った理由(そのギャラリーを選んで送った個人的な理由。例えばあなたの他の契約アーティストの誰々と相性がいいように思うから、グループ展をやれたらマッチすると思う。とか)など、丁寧に文章を書きましょう。そして上に書いた5つのマテリアルをメールで添付するといいと思います。CVなんかは絶対。ですがあまり重いデータが添付されたメールやアドレスが羅列しているようなメールは、読んでもらえませんし、そもそもスパムメールとして扱われ相手に届いてない可能性だってあります。

 

ギャラリーからのメールをもらうこと(厄介なギャラリーの仕組み)

展示やオンラインでの露出が増えてくると、ギャラリーからメールが届くようになります。オンラインやポートフォリオサイト(例えば有名どころだとArtsy)なんてのも世界中で乱立してますが、こういうものに登録すると、毎日ように世界中のギャラリーから招待メールが届いたりします。これもまた注意が必要。
上にも言ったように活動をしっかりしているギャラリーは、アーティストに困ってません。すでに十分抱えてるはずですし、次を取るなら自分の目で探して来ます。逆に例えばオンラインのギャラリーや、メールでアーティスト募集をしているようなギャラリーは、いいギャラリーではありません。もっと言えば、展示の参加費を請求してくる場合が多いはずです。例えば「作品1枚につき1万円で、一人2枚まで!」といったような形で10人くらいの(グループ展にしては多すぎな)展示を参加費を払わせて開催するパターンです。展示したよーといって後日展示風景の写真が送られてくるでしょう。

絶対にトラブルになるのが見える厄介なギャラリーなので、できればそういうところに手を出すのはおすすめできません。彼らは作品販売でギャラリーを維持ができないわけです。つまり顧客もいなければ、告知に力をいれてるわけでもないわけです。ですので参加費をアーティストから取って、短いスパンで展示をバンバンと組む。そのためにアーティストをガンガン集めるためにメールを送る。集まった参加費でギャラリー維持をする。 という流れです。狭いギャラリーの壁に所狭しと作品を並べてるタイプですね。
このようなタイプのギャラリーとは仕事をしないことをオススメします。上でも書きましたがすでにアーティストからの参加費で収入を得ていますので、やる気がありません。広告もしてなければ仕事も雑です。連絡ももちろん雑です。こういうところとやってトラブルになったケースはよく聞くので、注意してください。そもそもグループ展とは他のアーティストと空間を同じにするわけですので、ギャラリーの一つの展示としてクオリティが必要であって、他のアーティストとの相性が絶対に必要なものです。それを手当たり次第に集められた作品で、壁に所狭しを並べるような展示でやるグループ展には、出展する意味がないと思ってください。むしろ、そんなギャラリーでしか展示してないレベルの低いアーティストとですと自分でアピールしているようなものです。

こういうギャラリーからのメールか、本当にやる気のあるギャラリーからのメールかを見分ける方法は簡単です。
まず先ほどから言っているこのようなギャラリーは、あなたがきっと登録したオンラインポートフォリオサイトなど、露出が上がった場所からのチェーンメールです。オンラインサイトがギャラリーに対して、アーティストのアドレスを渡すシステムもあれば、ただギャラリーが手当たり次第に検索してメールを送ってくることもありますが、とにかくあなただけに送られたメールではないということを見極めてください。
一番わかりやすいのは、個人宛じゃないこと。 英語だと思いますが、Dear artists, みたいな始まりで自分宛じゃなく他の人にも同じように送っているのがバレバレなタイプです。ですが、すでに名前を抜かれてシステムに当てこまれてることもありますので、これだけでは判断しないでください。 あともう一つは、ギャラリーの説明や、グループ展の説明、ギャラリーの歴史なんかの詳細を長文に渡って詳しく説明しているメールです。(もう例文としてでバレバレなやつここに貼ってやろうかな…)って思うくらい多いんですが、要するに「あなたの作品をインターネット上で見ました!素敵な作品です。感動しました。よければ私たちのギャラリーで展示をしませんか? 私たちのギャラリーは何年にオープンしてNYのどこどこに位置していて、毎年多くの展示を行い、アートフェアにも多く出展しています。展示は…」 みたいなことをつらつらつらつらと長文に渡って。一見、親切丁寧!と思うかもしれませんが、完全なコピーの使いまわしのチェーンメールです。 もし本当にアーティストとして迎えたい文面であれば、本物の作品をどこどこで見たことがあって連絡した。とか、もしなければ「ぜひ展示をやりたいと考えているんだが、アトリエに見に行ってもいいか?」とか、「詳しい話は電話でできますか?」とか。具体的な話をする前になにかプライベートな話になるはずですよね。

 

それでも展示機会を増やしたい

書いてて思ったのは、私のブログを読んで参考にしてくださっている方々には2種類いるんだと思います。
・ドイツまたは日本以外の国にすでに移住していて、活動をしている。が、なかなかうまくいかず…
・日本にいて、日本国内または日本以外の国で留学または活動をしたいが、前情報を知りたくて…
という2種類。当てはまること、当てはまらないことが上の段階で多くあると思いますが、共通してみなさんが思っていることはおそらく

『展示機会または展示歴(CV)を増やしたい』

ということ。展示歴がアーティストの立ち位置として重要かどうかと言われると、非常に大切だと思います。ギャラリーや美術館などの知名度ももちろんですが、単純に展示回数はある程度必要だと思います。これがいいことか悪いことかということは置いておいて。
簡略化したことを言うと、活動している→契約ギャラリーがいくつかある→作品の価値がある ということからギャラリーとしては、「売れるであろう作品をうちでも展示したい」になりますし、一般人からみても「売れっ子なんだ、有名な人なんだ。」という印象を受けますので、作品の購買欲にも繋がるでしょう。ですので、展示場所の質(名のあるギャラリー、美術館、レベルの高いアートフェア)が大事なのはもちろんですが、ただ単純に回数がある程度必要なことは間違いないと思います。そのアーティストが活動を頑張っているかどうかも見えますし、趣味でやってるのかどうかと言う点でも。


そして上にあげた日本在住の方が魅力に思う、
海外での展示歴の価値についてです。下心というか、裏の気持ちを書くと、海外で展示をすることで「その展示を通して、あわよくば海外で活動の幅を広げたい」 または 「海外で展示した!という展示歴を、日本でアピールに使いたい」 ということが推測されます。ですので、多少の出費(作品輸送費と上にあげたような展示費用)を払ってでもやりたい。
前者の方は、ギャラリーによります。上で言ったようなギャラリーではもちろんですが、次に繋がるようなことはないかもしれません。それ以外の道で手に入れたチャンスであれば、飛び込んでみるリスクは冒すべきだと個人的には思います。日本人の作品というだけでおそらく海外ではいくつか価値が上がります。作品も売れる可能性も日本に比べれば格段に高いと思います。できればその一回の展示で、作品が売れた売れないで判断するのではなく(だって、通りすがりのお金持ちの観光客が買って行ったってあまり価値がないからです)その展示をきっかけにそのギャラリーにどんどんアピールすべきです。

さて後者ですが、本当に海外での展示歴が日本での活動の際、アピールポイントになるのかと言う点です。これが悲しいかな、なると思います。日本人ってやはりそういうもの。海外=すごい みたいなことがやはりあります。ですので、もしやるのであれば割り切ってやってください。というのがここでの答えです。結局?!と思いますが、展示歴に嘘を書くわけには行きませんし、SNSなどでは、ギャラリーから送られてきた展示風景の写真さえばいいわけです。どんなギャラリーだろうとも。
NYで個展を開きました!!!なんてすごいと思うじゃないですか。よく聞くフレーズじゃないですか。でもすごいじゃないですか。 ですが、そのギャラリーがNYのどこに位置していて、どんなレベルのギャラリーか、なんて誰も気にしないでしょう。NYにいくつギャラリーがあると思いますか?一番集中しているチェルシー地区でだけでも300のギャラリーがあるそうです。NYは広いわけですから、さらにその数は増えるでしょう。ベルリンだって同じような数字です。 上にあげたギャラリーなんかでは、お金を少し払って作品を送れば展示ができます。貸しギャラリーだってあるわけですから、お金さえ払えば誰だって展示できます。
ですがやはりアピールポイントになります。ですので、その展示歴を買うためと割り切ってやることが必要だと思います。得体の知らないギャラリーとトラブルになったとしても(経験あり)

展示歴上でのリスク

どんどんやればいい!チャレンジ!!経験!!! といって背中を押したい気持ちもありますが、ここで少しリスクについて。今はネット社会ですので、上に挙げた「どんなレベルのギャラリー/アートフェアか」というのは昔と違ってすぐ調べることができます。ですのでSNSでNYで展示しました!とアピールする一方、「え、あいつがやってたギャラリーてNYの端っこだし、貸しギャラリーじゃん」なんて、逆に印象を悪くしちゃう可能性もあるので気をつけてほしいと言うことが一点。
もう一つは、特にアートフェアは慎重になってください。ある程度名前があるアートフェアは、世界的にどのレベルか、業界人ならすぐにわかります。前回の記事でも上の記事でも、小さなアートフェアから始めるのがいい!とは書いてみましたが、もしこれを見ている方である程度のレベルにいる人に限っては、注意が必要だと思います。すごいレベルの低い聞いたことのないようなアートフェアなんて近年、世界中でたくさんできてきてますので、そのレベル界隈の展示しかしていないことは、悪い意味でのアピールになりかねないと言うことです。
ギャラリーのレベルは簡単には測れませんが、対してアートフェアは世界中のアーティスト、ギャラリストにとって、レベルを図ることは至極容易です。ですので、また逆に知らないギャラリーからオファーがきた場合、そのギャラリーがどんなアートフェアに出ているのかで、ギャラリーのレベルを図ることもできます。展示歴を気にして増やしたはいいけれど、ずっとレベルが低いところでやっていると、悪い印象を与えることにもなりかねないということを意識してほしいなと思います。

 

 

はい、ということで今回もすごく話が脱線して長くなってしまいました。
タイトルの私がスタートアップできた理由は、

ギャラリーに直接連絡して、作品見せにベルリンをキャリーバック転がしながら回ったり、オンラインのポートフォリオサイトに登録したりして、メールでオファーがあったギャラリーで展示したりしてトラブルになったりもしながら展示をたくさんしたけれど、大きな転機は小さな低額のアートフェアで個人出展をして、そこからギャラリーに拾ってもらって、っていうのを繰り返していきつつ、コンクールとかにノミネートされたり、有名な助成金を勝ち取ったりして、名前の露出も増えて作品も売れるようになって、ギャラリーがもっとレベルの高いアートフェアに連れてってくれて、気づいたら今みたい感じになってました!

というたったこれだけのことでした。長くなってすみませんでした!!!

 

前回の記事はこちら

 

Masaki Hagino
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