話題のAIアートの価値について現代アーティストが考えてみた【MidJourney】
最近ネットで話題のAIアート。簡単で、すごい奴がでてきました。
今回はこのAIアートについて少し考察してみようかなと思います。後半追記で美術史と写真史の話になって膨らんで結構なボリュームになったので、最後までお付き合いください。
AIアートって何?
AIアートっていうのはその名の通り、AIに絵を描かせるということ。
今までも別にそんなことできる人(プログラマーとか)にはできただろうなーって思うんですが、今何で話題になっているかというと、
「これが一般公開されて、特別なプログラミングもソフトも知識も必要なくて、無料で、一分でハイクオリティなものを作ってくれて、何ならサブスクすると著作権までくれて商用利用までしていいことになる。(種類によるので規約を読んでね)」
ということになっているのです。
今話題なものは特に二つ。DALL・E2とMidJourney
DALL・E2
https://openai.com/dall-e-2/
MidJourney
https://www.midjourney.com/
簡単なのはMidJourneyの方です。(Discord必須。現在ちょっと入れないエラーもある様子)
先に私が作ってみたものをいくつか貼ってみますね!
などなど。
こんな画像を作ってくれます。上の画像は全部Midjourneyで。
絵画っぽいもの、CG、3Dっぽいもの、和風、ルネサンス風、グラフィック、漫画、アニメタッチなどなど何でもござれ。これは主にインターネット上のありとあらゆる画像を元にラーニングしているからだと聞きます。
作り方は簡単で、以前にも話したコミュニティ形成とかで使うDiscordというアプリでできます。Discordってそういう使い方できるんだーっていうそこにまず感動。
MidJourneyのサーバーに入ると、Newpieというチャンネルに入れるようになるので、そこで
</imagine prompt:>を入力してから、指示を入力していきます。英語がよろしいかと。
文章でも、単語でもOK。無料のままでは約25回分遊べます。
詳しいことは他のブログでもたくさん解説されているので、そちらで。もっともっとハイクオリティなものも作れます。
「こういう感じで描いて!」っていうのを指示すると、一分で作ってくれる。
来てるね!未来!っていう感じ。
これがどうしたかって?
すごいのはわかるんだけど、これが何?という方もいるかもしれません。
まずここ最近はNFT、メタバース人気も相まって、デジタル作品の需要と価値がグッと上がりました。MJの作品はサブスクをすれば商用利用も可能なので、簡単なWeb広告とか、サムネイルにも使い放題。その上に文字を入れてCDジャケットにも一瞬でできそう。なんせ一分よ、一分。60秒でこのクオリティの作品が出てくる。
この関係の仕事をしている人は、まじかよってなっている、かも知れない。
だけど問題点ももちろんいろいろあります。
AIアートの問題点
当たり前だけれど、AIに任せて作っているので、100%思い通りにはならない。
指示の仕方を研究して、他のAIと連携させて、画像を元にした指示を行ったりと、これを扱う側のテクニックも必要ではあります。ただどれだけ頑張ったとしても、100%こうしたいを実現できない。99%に近づけることはできるかも知れないけれど。
つまりある程度は妥協が必要です。それか完成度90%まで作ってもらって残り10%を自分で修正するとか。
そういう使い方はできるかなって思います。
ですが、歪みがあったり、構図が変だったり、描写が雑だったりもします。
一見ハイクオリティなのは間違い無いのですが、細部はずさんなことが多いですね。
AIアートの価値を分析
本題はここ。このAIアートって価値あるの?という部分。
まずこの価値に対して少し分類しましょう。(特にMJにおいて)
先ほどから出ている
・ハイクオリティなCG
・一分というスピード
・商用利用可能
・誰でも簡単
・「みんながイイと思うだろうな」を作れる
これはすごいことですね。プログラミングの知識はいらないし、高いソフトもいらない。そしてソフトを使えるようになるまでの勉強と経験と時間も必要ない。
今からBlender覚えようとかすれば結構な時間が必要だし、時間をかけたからといっていいものを作れるかは別。ネットラーニングが元なので、つまりは検索数が多いものや、人気なものに似たものを作ってくれます。つまり作ったもの片っ端から「大衆にウケる」ものであることが多いです。
これらだけでもすごい価値ですね。
今まで絵とか描いてみたいけれど美的センスないからな…なんて思ってた人が、いきなりプロCGクリエイターばりの画像を、単語いくつかだけで一分で作れる。
これは価値以外のなにものでもない。価値いっぱい。
「簡単に、クオリティが高いものが作れる」っていうのは価値です。
例えば一昔前だと、手作りといえば年賀状がいい例かなと思います。
年賀状で大人でもなんだかんだ手作りしてました。何なら社会人の父親世代の方が頑張って。
プリントゴッコっていうシルクスクリーンの小さいやつがあったり、まめ太郎だったかパソコンでいろんなテンプレートから自分で印刷できるようになったり。
そうやって「簡単に、ある程度いいものが作れる」っていうものは常にそれだけの価値があるし、みんな嬉しいです。自分が作ったんだ!っていう体験を人は得たいものです。
デザインやらイラスト、CG業界の人たちも、詰まるところソフトを使用しています。つまり大なり小なり「プログラムが組まれ、裏で自動処理でやってくれるもの」を利用して作品を作って仕事をしています。それには知識、スキルや経験、磨かれたセンスなんかがいるのは言うまでもないですが。
つまりAIアートは、従来のイラストレーターたちと比較して
「知識、スキル、経験、磨かれたセンス、技術」をある程度補完してくれる存在
であることがわかります。さらに「最強の手軽さと速さ」が加算される。
おお…
これは一人勝ちか?最強か?
と思うかも知れませんがちょっと待った。
本当にAIアートは美術的な価値があるのか
上で話したことは、
「クリエイターではない一般素人にとって」と「大雑把などんぶり勘定のクオリティに対して」です。
さっとMJで作ったものは、確かにすごいです。
ただそれには冒頭で説明したように、妥協が含まれています。細部が特に。
デザイナーでもイラストレーターでも画家でもアーティストでも、むしろ細部にこだわっています。
あと1mmこっち… 比率を揃えて…筆跡が… 色はこう…
口悪く言うと「素人が見ても一見わかんない」みたいな部分に命かけてるみたいなとこあります。
なぜかと言うと、そんな「ちょこっと」が全体の印象やクオリティに大きな影響を与えるからです。
つまり純粋な作品としての価値を持ったものと比較すると、
上で挙げたAIアートの全体的なクオリティは、かなり低いと言わざるを得ません。
もちろんさらにMJの使い方がどんどん開発されて、いろんな技が出て来てその辺が解消される可能性もあるけれど、そりゃ世界中のその手のプロを比較はできない。
まぁじゃぁプロは当然としてさ、ある程度の世界だったら結構価値あるんじゃない?
確かにそう。あまりクオリティを求められていない現状のイラスト系やCG系NFTの世界では結構騒がれていることです。「これNFTでやったら売れんじゃね?」って。
ただよく考えてみてください。
みんなが誰でも簡単に作れるものに
どれくらい価値ってあると思いますか?
どんなものでも、みんなが簡単に作れないクオリティやアイデアなんかがあるので、すごいなってなるわけです。でもみんなが同じようなものを作れてしまっている状態では、「これ俺でも作れるもんな」ってなってしまって、価値が下がっていきます。冒頭で挙げた価値とは別の資産価値とかそういう部分。
逆にいえばAIアートでもできるようなものを作っていた場合は、確実にAIアートに喰われてしまいます。「いやこの作品、仕事だったらAI使って俺自分で作るから、買わなくていいわ、外注しなくていいや」になってしまう。
なのでAIがまだできない部分を探していく必要があります。
例えばストーリー展開はまだできないよね、とか
日本でコンセプトアートって呼ばれる、良く言う「世界観」がある作品とかを内容を詰めていく、とか。絵本とかが近いのかなと思います。
もう一つ別の角度で言えば、やはりこれはデジタルの世界の話なので、油絵とかそういうものとの価値とは別のところにあります。なのであまり美術の分野に侵食して来ない可能性もあります。もちろんデジタルアートとかっていう分野には参入して来て、議論を巻き起こす可能性は大いにあるんですが。
彫刻や油絵とか古典的なというか純粋な美術技法を元にしたものとは、別の価値かなと思います。
AIアートの行く末
面白いところが、まだまだ発展途上だと言うこと。これはAI側も、使う側も、そして世間一般も、市場も。
今挙げた問題点も、使い方次第でクリアできると思います。MJでベースを作らせてから上にどんどんいろんなことを重ねるとか、「AIアート」っていうコンセプトそのものを利用するとか、別にそこまでのクオリティを求めていない求められていない場所での活躍が広まるとか。
総括すると、私は「AIアート」は全然ありだと思います。需要を満たすすごい大きな価値もあるし、可能性も秘めているし。
大切な部分はソフトも、AIも「一つの画材」として扱うことです。
要は使い方。画材だけで独立してある程度はすごいけれど、それだけじゃ足りない。根本で大切な部分は作家自身の+αが必要。例えば高級なカメラを買ったらいい画質で写真は取れるけれど、素人が撮った写真がどこまで評価されるのか?ってことと同じです。
AIの扱い方、指示の出し方、AIアートを作っていくプロセスを変えるとか、結局同じMJを使っていても排出される画像の内容は人によって、中身のクオリティに差が出て来ます。そういう部分が一番大事になってくるんだろうなと思います。
個人的にはこれを用いて、何かコンセプチュアルアート的な装置を作ったりできないかなーって考えています。AIアートをあざ笑ったり、既存のCGをあざ笑ったり、何かそういうもの作れたら現代アートとしての価値を付与できるなと思います。また何かできたらシェアしますね。
追記: 美術史学的な話
読み直していて、ふと思ったことがあります。上の青色の線を引いたカメラの例え。
これ割といい例えだったかなと思うんですが、つまりこの時代で新しいテクノロジーの発達が、従来の価値(特にデジタル、イラスト系)に大きな影響を与えた、ということです。
ふむ、聞いたことあるなぁ。
そう、これって
数千年続いた絵画(特に風景画、肖像画)に影響を大きく与えた写真技術の発明の時と似てる。
時代は19世紀。1827年頃にニセフォール・ニエプス(Joseph Nicéphore Niépce 1765-1833)という人が世界最初の写真を撮影しました。
ここでは簡易的に説明しますが、これはほぼリトグラフのようなもので、カメラオブスキュラというわかりやすくいうとピンホールカメラ的な装置を併用して、ヘリオグラフィという名付けられた石板と薬品をうまく使った技法です。これは撮影に8時間以上かかったのではないかと言われています。
このあと彼の研究はルイ・ジャック・マンデ・ダゲール(Louis Jacques Mandé Daguerre, 1787- 1851)に引き継がれ、彼はダゲレオタイプという発展系を発明します。これで露光が10分ほどに短縮。
その後、 フレデリック・スコット・アーチャー(Frederick Scott Archer 1813 – 1 May 1857) が発明した5秒ちょっとで現像が出来上がるような湿板印刷が世界に広まるまで、なんとたった30年ほど。
そう、たった2、30年で世界に写真っていうものが浸透しました。結構な画質のものが数秒で現像できるまで、です。
美術史、絵画史においてこの写真の発明は避けては通れません。なぜならこの19世紀まで人間は、古代ギリシャ・ローマ時代から数えて数千年もの間、「目で見てる世界(3D)を、どうやって絵画(2D)に起こすか」ということを必死にやって来ました。今やアートはコンセプチュアルで複雑ではありますが、この19世紀までは美術というものは、このことを追求していました。もちろん色々と内容は時代によって変わりますが。画家たちは本業・副業として、肖像画家として食べていました。そしてそれはもちろん貴族や豪商、お金持ちのお客さんがいて、何時間もの時間をかけて絵を描いてもらっていました。それがどうでしょう、たった数秒で、数分で完成し、見たまんまに近いほどの画質で出来上がる最新技術が世に誕生しました。肖像画家の立ち位置は完全に肖像写真家に奪われてしました。
世界は空前の写真ブームです。そんな中画家たちは美術についてもう一度考え直す必要がありました。
「私たちは新しい美術の価値を再発見しないといけない」
そうして生まれた新しい概念が動的なものへの着眼です。「我々人間はカメラのような何分の1秒などの一瞬を切り取って世界を見ているのではなく、常に動的に映像を見ている。」そういう発見から新しいモチーフとして、揺れきらめく水面、風で揺れる木々、服、光と影。こうして印象派が誕生しました。
世界で名を馳せ、美術史の中でもかなりの比重を持つムーブメントが誕生しました。
なんでこんな話をしたかというと、
このNFTの概念やAIアートの誕生って、あの時代の写真と印象派の関係によく似ているかも知れないなと思ったからです。既存の価値を新しい発明・テクノロジーが食い破る。きっとそれはどんな分野にも往々にしてあった出来事なのでしょう。そしてそれはある意味古いものを窮地に追い込むことになるかも知れない。ただそれをうまく利用したり、もしくはそれを乗り越えて新しい価値を再発見していくことによって、より価値の高いものが生まれることになるかも知れません。
Masaki Hagino
Contemporary painting artist based and work in Amsterdam and Cologne.
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