AIアートがコンクールで1位を獲った!?

AIアートがコンクールで1位を獲った!?

想像よりも早かったこんな出来事が起こりました。情報を精査しつつ、色々考えてみましょう。

参考記事はこちら
An AI-Generated Artwork Won First Place at a State Fair Fine Arts Competition, and Artists Are Pissed https://www.vice.com/en/article/bvmvqm/an-ai-generated-artwork-won-first-place-at-a-state-fair-fine-arts-competition-and-artists-are-pissed

必要な情報だけ抽出すると、
アメリカ、コロラド州のアートコンクール(メディアアート部門)で、話題のAIアート生成ができるMidjourneyを用いて作品制作をしたJason Allenさんがなんと1位を獲得した。
と、いうことです。

確認しなきゃいけないこと

「他のアーティストを押しのけて、AIアートが一位を獲った」ということだけを見ると、言いたいことがたくさん出て来そうですが、まずは色々と情報を精査してみましょう。

そのコンクールってどんなレベルだったのか
Colorado State Fair
https://coloradostatefair.com/competitions/general-entry-fine-arts/

移動型の遊園地が設置されて、出店がたくさん出て、ステージで歌やダンスがあったり。ロデオ大会とかも。ちらっと調べたところそんな感じのアメリカによくある、大きなお祭りの印象でした。
その中にあるコンペ(コンクール)の一つに、クリエイション部門があったようです。
Jury(審査員)の人も、美術史研究職の人や、美術評論家、美大教授などといった人たちということではなかったようです。
どちらかというとこのイベントの中の一つで、手芸部門、ビールワイン部門、人形部門、農作物部門とか、いろんなジャンルがありました。
なので、広いアメリカの中でこの賞を獲ったら箔がつく、有名なコンクールとかではないことは確かだと思います。(詳しい方がいたら教えてください)

・審査員たちはこの作品がAIアートだと認識していたのか?
これは認識した上で、審査が行われていた様子です。作品タイトルは“Théâtre D’opéra Spatial”でしたが、作者名には“Jason Allen via Midjourney”として申請していたので、ちゃんとMidjourneyで制作したことを明確にしていました。

・作品はどういうものだったのか?
作品自体は100枚以上の生成を行い、微調整を繰り返し、Midjourney主体でクオリティ調整をし続けたようです。その作品をGigapixelsで引き伸ばして、デジタルのキャンバスプリントを行なったようです。(キャンバスの上に、デジタルデータをプリントするサービス)リンク先から作品も見ることができますが、Midjourneyっぽい神聖な雰囲気のある作品でした。

AIアートが優勝した、周りの反応

記事中にも色々とコメントがありますが、世論的には
「アーティストにとって、芸術にとって終わりが近づいている」
「AIアートが優勝するなんてありえない、最悪だ」
みたいな、批判的なコメントが多そうでした。

日本にもこのニュースは流れて来ていて、日本語の記事にもなっていたしTwitterでもプチバズしてましたが、あまりいい反応はありませんでした。

価値判断の曖昧さ

さて情報がまとまったので、色々と考えていきましょう。下の記事とも重複するかもしれませんが、実例が出て来たということで改めて。

やはり注目しておかないといけないのは、このコンクールがレベルが高いコンクールではないことは大きな要素かなと思います。
このコンクールに限らず、こういった大きなイベントの一つのコンクールだと、欧米ではよくありますが一般投票とかがあったりします。見に来てくれた人が1票投じることができるとか。
以前から話をしてますが、美術自体が元々ハイカルチャーのもので、見るための評価するための知識が必要です。なので美術的価値と、クリエイション的な価値の判断基準は少し別の場所にあります。

今回一般投票があったかどうか詳しく調べてませんが、審査員がこの美術的価値を吟味した上での審査を下したのかということはあまり見えてこなかったです。


イラストレーションとしての価値、絵画としての価値。
そして本質的な美術としての価値は少し別です。

ただ今回のコンペに限らず、
・AIを使ったとしても、細部のクオリティの補正や、試行を繰り返していいものを作るための努力をしている点
・AIアートという新しいものを使用している「コンテンポラリー」的な新規価値
・デジタル的な最先端、新しいテクニックという点

・今回は当てはまらないけれど、コンセプチュアルアート的な「皮肉」として、それをうまく使う
という部分などなどは、コンテンポラリーアート・ファインアートみたいな部分では評価基準に触れると思います。
なのでAIを使ったとしても、コンクールの審査の中で、高い価値を得ることもあり得ると思います。

ちゃんと見なきゃいけないところは
「AIアート」だから絶対「チート」ではないこと。その簡単さから、ずるいと思う人もいるかも知れないけれど、内容を吟味してちゃんと分析すると、別の価値が付随している可能性があるということ。
そこは審査・講評する上でしっかりと見なければならない部分だと思います。

AIアートの価値がどれくらい上がっていくか

実際にどんなコンクールで、1位を獲ったとかは実際はあまり重要ではないです。そういうこともあった、となるだけなので。
大事なのは内容なのですが、この受賞者は100枚以上の生成を繰り返し、微調整を重ねました。
そして純粋な絵画部門ではなく、メディアアート部門/ファインアート部門に出展しました。

フォトショップで写真を加工したり、ソフトを使ってデジタルイラストを描く

これは認められていることですね。メディアアートというものは基本的には、ソフトを使用しています。手作業を超えた、プログラミング処理を自動でさせたりをします。
なぜこれが認められているかというと、作り手の能力有りきで、ソフトを「道具」として使っているという認識があるからだと思います。画材というか、道具というか。


では Midjourneyではどうでしょうか。確かにいくつかの指令を出すだけで、その労力、製作者の能力をはるかに凌駕するものが生成されてきます。「チートじゃん!」っていう感想は、理解しやすい感情ですね。これも理解できます。作り手の能力は関係ないけど、すごいものが誰でも作れる。ここが問題。

ただ前回の記事でも説明しましたが、現段階のAIアートは、ぱっと見ではハイクオリティですが、逆にこのレベルで作れるはずなのに、細部に歪みがあったり、雑な処理があったりと違和感があるロークオリティの部分が目立ちました。


では、Midjourneyとはいえ、何度も何度も微調整を繰り返し、指令コマンドの実験を繰り返し、世界中で毎秒凄まじい数の制作が行われているこのAIアートの中での「個性」を見つける研究を行って、道具として使用した場合…

他のメディアアートとの差はどこに、どれくらいの差が出てくるのでしょうか。


AIアートという新しいジャンルが
生まれるかも知れない

参照記事の最後にも、このJason Allenさんが言及していますが、こういったジャンルが新しく生まれてくる可能性があります。
例えば、デジタルカメラの普及が始まった頃、やはりフィルムカメラ勢から「デジタルカメラなんてダメだ」「あんなの使ってるやつはカメラマンじゃない」っていうのがやっぱりありました。1枚ずつしか取れないし、撮った写真をすぐ見ることができない、これがフィルムカメラの性質だったんですが、デジタルはそれを簡単に凌駕していきました。
ですがどうでしょうか、15年前くらいに「デジタルなんて」って言ってたカメラマンはおそらく全員今はデジタル一眼レフを握ってるでしょう。

イラスト界隈だって同じで、CGだって全部同じです。最初はアナログだけだったこともあり、それを行っている人口が少なかったんですが、デジタル版の普及でみんなが手軽に使えるようになったことで、人口が増えました。

そうすることで必然的にコンクール・コンペの応募枠が細分化されていきました。アナログ・デジタルで各ジャンルが分かれていたり、昔はそもそも「メディアアート」っていうものが存在してなかったり。インスタレーションとかもコンペとして枠が用意されたりし始めたのは、ここ最近のかなと思いますよね。

つまり今はAIアートって、「デジタルイラスト」枠では「チート」かも知れない。賛否が分かれるところかも知れない。けれどこういう事件?とかコンペでAIアートをよく見るようになったりすれば、そのうちこれは一つの技法として認められ始めて、ファインアート枠、メディアアート枠、デジタルイラスト枠から抜け出して「AIアート枠」が用意されるようになるんだろうなと思います。

新しいものができてきたら叩かれたり批判を受けたり、正当な評価がされないのは当然かなと思います。ただそれでもずっと先端を生きながらやり続けると、そのうちそれが一つの価値として認められるようになるのは、美術業界では普遍的なことだったりします。
ここ数ヶ月でどんどんと新しいAIが出てきてるので、色々と触ってみて、使いこなせるようになると今後どんどん面白いことができるかも知れませんね。