アート心理学?心理学応用で、創造力とモチベーションを維持する方法

アート心理学?心理学応用で、創造力とモチベーションを維持する方法

今回から少しずつ心理学にまつわる記事内容も、執筆していこうと考えています。その理由はいろいろとありますが、なにより私が自分の作品コンセプトのために心理学、脳科学、神経科学の講義を大学で受講していたことで、多くのことを学んだということが大きいです。アーティストとは黙々と夜中まで作業しているようなステレオタイプのイメージがあるかも知れませんが、実際大切なことはアスリートのような生活コントロールと、科学者のような研究プロセスであることは、このブログでも他の記事でまとめています。*例えばこちら

そこで今回のテーマは【Creativity and Motivation】として、作家活動をしている人が多く抱えているであろうその二つの悩みを、心理学の力を借りてpositiveなものに変えていきましょう。スポーツ心理学に対抗して、アート心理学?と題してどれくらいまで応用が効くでしょうか?


なぜ心理学などが大切なのか
芸術活動にどのくらい応用できるのか?

音楽でも工芸でも、美術でも、なにかを作る芸術的な活動では、一般的なビジネスの分野、特に企業勤めに当てはまらないことが多くあります。ビジネスにはすでに多くの心理学などが利用され、マーケティングや企業コンサルタントに心理学者が介入していたり、多くの書籍も出版されていますよね。ですが我々芸術の分野になればもちろんその恩恵をなかなか受けることができません。相対的に考えてそれは当然ですが、それは芸術の分野に心理学が応用できない、ということを裏付けているわけでは決してありません。むしろ私たちの方が直接的に心理学を取り入れていく必要のある分野だと思います。
芸術活動が形を成すまでには大きく分けて2つのフェーズがあります。1つ目は作家が作品を作るまで。2つ目は作品が見る人/触る人に届くまで。前者の段階では上に挙げた記事でも書いたように、アスリートのような生活、精神コントロールをすることで制作活動自体のクオリティを上げることに繋がります。そして後者では作品自体の能動的性質と、観察者の受動的な性質には、相互的に心理学や脳科学が影響しています。

スポーツ心理学が浸透している一方で、もちろん私たち作家の私たちにも同じように心理学が応用できる、もしかしたらスポーツよりも大事なものかも知れません。それは芸術の分野には、スポーツには(直接影響し)ない「観察者」の心理に影響を与えるものだからです。

 

Creativity-創造力とMotivation-モチベーションと
Psychology – 心理学

テレサ・アマビール(Teresa M. Amabile): ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)のベーカー財団およびエドセル・ブライアント・フォード記念講座名誉教授
(日本語での情報元: Harvard Business Review)

彼女は動画内で、創造力とモチベーションについて述べています。ビジネスの組織に対するアプローチではありますが、応用が様々なところで可能な話だと思いますので、今回ここで紹介します。
動画は英語なので、かいつまんで日本語で説明すると、動画内では2つに話を分けています。ひとつは創造力と報酬、もうひとつはsmall-winとモチベーション維持について。
彼女の実験では、子供を二つグループにわけて、同じ材料を渡して工作をしてもらいました。一つのグループには何も言わず、もう一つのグループには「この中で一番よくできた人をあとで決めるからね」と伝えます。子供にとって大切な感情「一番になりたい」「褒めてもらいたい」でモチベーションを誘引させるというためです。ここでは詳しい作品と評価基準については話していませんが、研究結果では、何も伝えられず自由なモチベーションだけで行ったグループの子供の方が結果的に創造性に溢れた作品を作ったとされています。これは喜びや楽しみ、そして好奇心を満たしたり、チャレンジ精神など、満足感を得るための行為、つまりintrinsic motivation(人間に本来備わっているような)感情に従っている方が、意欲的に制作に取り組むことができ、そのため良い結果をもたらすということです。また逆にexternal motivation(外部から誘引されたもの)や、external pressure(外部からの精神的プレッシャー)を受けていると自由な創造性を失う傾向にあるということです。

現代の成人作家に置き換えてあえて言うならば、例えば受賞を狙った作品だったり、他人の評価を気にしたり、作らければいけない、売れる作品を作らなければならない、などどいったことを頭で考えて制作を進めている状態が、上で挙げたexternal motivation and pressureにあたるようなことだと思います。

そしてもう一つこの話に続くことは、人間は毎日の小さな勝利(small-win)を得ること、つまり目標に向けて少しずつ進んでいるという達成感や充実感を与えていく方がモチベーションが上がるという話です。人は大きな目標を掲げてしまいがちです。ビジネスに当てはめると私たちフリーランスの作家はピンとこないような気がしますので、例えばわかりやすいところだと、インターハイ優勝!とか。普段の戦績とか全く無視で意欲だけでそんな大きな目標を掲げると、例えば練習試合で負けたりすれば「こんなんじゃインターハイ優勝なんて到底無理だ…」と余計な敗北を感じることになります。こうして大きな目標をだけを掲げると、このsmall-winに対してsmall-loseを多く感じることになり、モチベーションの低下に繋がるということです。この短期的な目標設定をすることは、実はスポーツ心理学ではメジャーな話です。自分のウィークポイントを分析して、今週はこれをやる、来週はここを鍛える、などという短期的な目標を同時に設定してそれをどんどんとクリアしていくことで、ずっと達成感と進歩しているという満足感を餌に、モチベーションを保つ方法です。

彼女の研究結果を元に、私が個人的にモチベーションを維持し続けて毎日毎日制作を続けていられる方法を分析すると、3つ思い当たることが見つかりました。

 

アート心理学?
私が行っている3つのモチベーション維持の方法

実際に今私はこのテーマで論文を書いているわけではないので、先行研究がどうとかなんてことは詳しく調べていません。TEDなどを日常的に見ているときにこういう記事もいいかなと思い立って書き始めただけですが、もしもっと詳しい書籍なんかを知ってる方がいたらぜひ教えてください。

私が自己分析をして、これでsmall-winを獲得し、モチベーションを維持しているかも知れない内容は

①制作日誌を毎日書くこと。(テレサ教授の動画内にも同じような話があります)
②10年目標、5年目標、1年目標がある。
③コンテスト応募や展示を多く持つこと。

 

①5つのポイントに分けた日誌を書く

これは高校で部活をやっていた頃にもやっていたことでした。(スポーツ心理学ではよく見かける内容ということです) 書く内容は今日の制作の記録、何を思って制作をしたか、どこに気をつけていたか、問題点や気にしなければならないこと、そして明日やるべきポイントの5つくらいを書いています。iPad(Goodnotesというapp)にApple Pencilでそのまま手書きで書いて、ipadのカメラで撮影した制作の様子をその日誌に貼り付けています。こうすることで視覚的にもすぐに、その日の制作でなにをしたのかということをいつでも思い出せるように。(例としてスクリーンショットを貼ろうと思いましたが字が下手すぎて恥ずかしかったのでパス笑)写真を貼った絵日記みたいな感じです。
ここで大切だなと思うことは、明日やるべきことを書くという点です。がっと集中してその日を終えて、一晩経ったらなんか違って昨日やった部分全部やり直し。みたいなことってありませんか?今日をどこで終わらせればいいのかわかんないからつらいってことは? そういったことを減らすために明日やるべきことを今日の制作の最後に書いておきます。明日の自分へ、「今日はこういうところ気をつけてやってねー!終わったら帰っていいよー!」って言ってあげます。悩む部分、考えなければならない部分、そして作業的にやらなければならない部分がわかるので、次の日制作を始める前には、昨日の日誌、または過去数日をさらっと読み返してからスタートします。

こうすることで見えて来る点は、明日やることがはっきりと見えているため、「今日」をスパッと終わらせることができる点と、朝起きてコーヒーを淹れながらそれを読み返して頭と気持ちを整理させて、「今日」を始めさせることができる点です。漠然とどこまでやらなければならないのか、そしてなにをやるべきかを悩んでいるととても苦しい時間が長々とそしてだらだらと続いてしまいがち。ですのでスパッと終わり、スパッと始めることが大切。そうすることで毎日のモチベーションが続きます。

②目標を「長期間のもの」と「短期間のもの」を用意する

これは先ほど上に出てきたsmall-winにも繋がります。長期間の目標などについては「私が海外でアーティストとしてスタートアップできた理由 part 1」でも具体的なことを書いています。長期的な目標を掲げ、そこからその目標をどうすれば達成できるのかを必ず逆算して、かつ具体的に計画し、そこから短期目標を作り上げます。目標の作り方はハートフォードシャー大学教授Richard Wisemanの「59 SecondsThink a Little, Change a Lot」という本にも詳しく書かれています。(日本のアマゾンではこちら)心理学的に成功するような計画を立てる方法とそれを実現する方法です。その中にも書かれていることは上に挙げた、大きな目標の他に小さな目標を作り、満足度を獲得できるようにするということです。この辺りはテレサ教授のsmall-winと通づる話ですね。
私は大きな目標に進んでいける、そこから逆算した小さな目標を積むことがよいと思っています。例えばスポーツだと結構簡単。インターハイ優勝という大きな目標の前に、県予選地区予選グループ戦…といったように自動的に小さい目標が出てきますし、週末の試合に向けてなにを強化すればよいのかというさらに短期のsmall-winへの目標がする立てられるからです。
そういったようなプランが立てにくいフリーランスな作家では、自分でこういうような数週間、数ヶ月、数年の具体的目標を自分で意識して設定することが大切。

③コンテスト応募や展示を多く持つこと

これは上の例で言えば、練習試合みたいなものを増やす行為です。展示の大小によれば目標になりがちですが、とにかくどんどんと発表の場を作ることは、私たち作家のモチベーションに繋がるかなと思います。多い年では10回の展示をこなすこともありました。ただし私は一度も「展示のため」に制作をしたことはありませんよく聞くワードですが、「展示にむけて制作をがんばる」のはよくないかなと思っています。常にモチベーションを高く持って、制作を毎日続けていたら作品は余るほど出来上がっているべきです。良い悪いは考えずとも、ある作品をギャラリーなどとも相談して、展示数や展示期間、コンクールの結果発表などと照らし合わせて、ある分をその場その場に提出するだけです。ベストな作品を!と背伸びをして展示に向けて制作を繰り返していくのは、一番最初のexternal motivation and pressureに直結します。今出せるベストでいいんです。背伸びする必要はありません。仮に自分が満足いかなかったとしても今出せるベストを出し続けた結果の作品であれば、それはあなたのベストです。(ここらへんは次の記事でも書きますね)「評価されるための作品を!」と作った下心丸見えのすでに評価されているやつのパクリみたいな作品より、「今こういうことを表現したくて研究途中なんだよなああああ」っていう思いが載っている作品の方が、絶対に魅力的です。 ですので大きい小さいに関わらず、どんどんと展示経験やコンクール応募を増やして、それをモチベーション維持に役立てていくことが大切だと思います。そうすることで結果的に大きなものを獲得できるようになるはずです。

 

個人的には成功した人が書いたような自伝に近い自己啓発本はあまり読みません。なぜなら「応用が効かない」からです。それはその人の性格やその人の人生、その人の分野で成功した方法であって、必ずしも自分に当てはまらないから、もしくは自分がそれを行っても同じような結果が出るかが不明だからです。(検証結果はその人ひとりだという点で。)ですがこうした心理学などの研究結果などをまとめている本を読む場合、自分に当てはめてアレンジすることが可能です。そしてそれはもれなく、すでに数多くの人で実験が行われていて、過半数以上に見られた結果付きです。
制作時間も長期、そして結果が付いて来るまでも長期。そんな私たち芸術家の人生ですが、そんな人生の毎日を紡ぐための、制作や練習のクオリティやモチベーションを上げ、そして保つために今回は2つの心理学者の話を元に、芸術家に当てはまるようなアート心理学?を作って話をしてみました。

これまで読んだ本の中にも、まだまだご紹介できる研究もあったので、好評だったらまた別の記事も書いてみますね。

歴史的大猛暑を記録した(38℃)アムステルダムより、Masakiでした。

Masaki Hagino
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