【保存版】アートとそうじゃないものの本質の話

【保存版】アートとそうじゃないものの本質の話

これまで何回かに分けて、アートと、アートじゃないものについてとかデザインとアートの違いとか。そういう分類に対しての話をたくさんしてきました。今回は図まで作ったので保存版としてちゃんとまとめて話をしようと思います。なので繰り返しの部分もたくさんあると思いますので、予めご了承ください。

先に、これまで書いてきた過去記事をまとめると↓
デザインとアートの違いはどこにあるのか
アーティストとして美術を研究するって一体どういうこと?
何がアートで、何がそうじゃないかの話 part 1
何がアートで、何がそうじゃないかの話 part 2
「自己満足な作品」とそうじゃない作品の境界線

他にもあったような気がするけれど、きっと重複してるなってことでここらへんにしておきます。あ、まだポッドキャストのみの内容もありました。

今回は本質的な話と、一般的な誤解について比較して、これまでの話をまとめようと思います。

 

このブログでよく使うワード
「学術的価値」とは

これは私が利便上よく使うワード。本質的な分類としての「美術」っていうのは1000年(洞窟絵画から言えばもっともっと)以上の歴史があるような、世界中の大学でも扱っている「学術・学問」です。内容的な部分のみを研究する学者さんっていう人たちもいるし、それを作っているアーティストっていう人たちがいます。
世界中、日本では特に「アート」という言葉が広義化しているので、例えば「ラテアート」だってアートという言葉を使っているし、「現代アート」っていうものと言葉の意味では並列で扱われている状態です。もっと言えば、チョークアート、書道アート、フラワーアートとか、デジタルアート、クリプトアートとか。「○○アート」という言い方で、自由な表現を行なっているものはみんなアートという括りになってしまって、その○○の部分には多くの場合その技法やら素材が当てこまれます。
一般論としてのアートの間違った解釈が広まってしまいました。これは仕方ないことでしょう。紙と色鉛筆なんかで、人間は1歳くらいからきっと表現が可能な訳なので、「子供はアーティストだ」とか「自由な表現がアート」「個性・感性で語るのがアート」みたいな誰が言ったかわかんないような言葉が広まってしまいました。

「美術は学問」と、「子供の頃から誰だって自由な表現をして生きてきた」っていうことはとてもとても対照的です。かたや学問を専門的に勉強しないといけない分野に対して、かたや普遍的な誰でも可能な分野だからです。例えば「アートはアーティストの感性で描くもの」「アートは見る人の感性で見るもの」みたいなことを言う人がいるとして。ルネッサンス絵画っていうのは多分その人もアートのちゃんとした部分として認めているので、ルネサンス絵画は教会から依頼された宗教画で…感性とかそうじゃないってことを説明すると、わかりやすいのかなと思います。
学問としての解釈ができない人が大多数。なので一般の人がどうやってアートを評価するのか?というと近年それがお金の価値になりつつあるなっていうのは、上のポッドキャストのリンクで話しています。わかりやすい話は、「世界レベルのコンクールで賞金はでないけれど、美術の評価ができる審査員を評価を得て優勝した作品」と「例えばNFTとかで美術のことをわかんない人が数十億円で落札した作品」はどっちが優れているのか?みたいな話。

美術というのは長い歴史があって、その歴史上の価値を踏まえた上でその価値を保持することが必要です。なのでアートは、一つはその文化的価値を守るタイプのもの、そしてその文化を進めるための新しい制作を行う二種類あるのかなと思います。前者は「クラシック」的な意味があるし、後者は「コンテンポラリー」的な意味が含まれているわけですね。

こういう話をすると、話の本質を理解できていない人から「アートが学問なんていうのは馬鹿げてる。表現っていうのはそれだけで素晴らしいもので、自由だからいい」みたいな全く別角度の感情論をぶつけられるんですが….無視で。

クリエイションというものの
本質的な分類

上の話をまとめると、じゃぁ学術的価値を含んでいないものは何になるのか?ということ。そう、その分野にちゃんとした名前がないことが、このアートという言葉の広義化の一番の原因だと思います。学術を勉強した上でアートを理解している人間なんて世界中で見てももちろんごくわずかで少数派なわけです。ルネサンスとかの時代で言えばもうそれはそれは限られた人間だったわけでした。ですが画材が普及したりしたことで、人類の大多数が学問的な価値を理解しないまま、表現を行い続けています。それ自体はもちろん素晴らしいことなんですが、その部分に何の名前もないので、それを「アート」と名付ける他なかったことが問題だったわけです。
私がここで言いたいことは、アートが優れていて、アート以外の学問的価値がないものはしょうもない。みたいなことではなくて。どんな形であれ、何かを作って生み出すことは素晴らしいことです。なので、アートが何なのかを分かっている人たちの世界で、そうじゃない人が何にもわからないまま「自分の作品もアートだから」ってことでチャレンジして、評価されなくて「何で自分の作品が評価されないのか」っていうことを悩んでいるのは残念だなっていうことです。どっちが上とかどっちが下っていうことではなくて。別物な訳です。
そしてなぜかみんなが「現代アート」がピラミッドの頂点だと思っている節があって、「あんな意味不明な作品が評価される世界」に難癖つけているのも少し謎なわけです。

文章だけではわかりにくいかもしれないと思って、今回は図を作りました。急ごしらえなのでクオリティには言及禁止で。画像が小さくて文字が見にくいかもしれませんが、クリックで拡大表示できると思います。


【本質的な分類】
「何かを創る」っていうものすべてのことはクリエイションということでいいはずです。それはデザインでもアートでも一緒。そしてそれ以外のまだ名前がはっきりついていないものが存在しています。この大きく分けて3つのジャンルは、きっとそれぞれ重なり合う部分があります。その故、ぐちゃぐちゃな解釈になっちゃう。デザインの分野にはまだまだ詳しくないのであまり解説はできませんが、本質はきっともう少し別の部分にあるとおもいます。油絵を描いたところで、それが絶対アートとして評価されるわけではありません。絵師さんとか、Cryptoアートとか、NFTアートなど近年でてきたものや、その技法や素材を用いたら自動的にアートになるわけではありませんしアートっぽい表現でも学術的価値を保有していないと、アートとしては認められない。ただ逆もあるので、何も考えずともそれが実は学術的な価値を保有していることもあるかも知れないし、第三者から見出されることもあるでしょう。
この黄色の部分をやっている人の方が他二分野に比べて何十倍も多いはず。まぁなので黄色い部分をクリエイションにして、アーティストでもデザイナーでもない人をクリエイターって呼ぶってことはありなのかも知れません。

次に一般的な誤った解釈。広義化した誤った認識を見てみましょう。

【一般的な誤った分類】
上にも説明した通り、定義的な意味は置いておいて、誰が言ったかわかんないみんながよく聞くワード、考え方みたいなのから来る誤解です。何となく「デザインとアートの違い」っていうのはよく目にする、耳にする議題なので、この二つは別なんだろう!ってことはわかります。ただ最初の図に存在する黄色い分野は基本的には全部アートに侵食されています。なのでクリエイティブなもの全てで、かつデザイン的要素がないもの(特に言えば抽象表現とか、心象表現とか日本で絶対数が多いもの)全てがアートとして分類されてしまいます。

クリエイターっていうワードが広まればもっといいのかなと思うんですが、それってまだYoutuberが動画クリエイターって呼ばれるだけな気がして、最近はっきり認識され始めた性質なのかなって思っています。
「アートが問題提起でデザインが問題解決」っていうのも、いや別にゴシックもルネサンスもロココもバロックも(それ以外もたくさん)何も問題提起してませんけれど…っていうとおしまいです。誰が言い始めたのよ。問題提起することがアートとなりうることはあるでしょう。だからと言って美術全部がそうかと言えば全く違います。
感性で絵を描くことが悪いって話でもないです。それが価値を持った時代はあった。ロマン派、印象派、表現主義とかはそういうことが言えるかも知れないけれど、もちろんそれが全てな訳ではないです。

まとめてみると

こうして図解指定みるとわかりやすいかなと思ったのですが、いかがでしたでしょう。価値がどれくらいあるのか、という度合いはまた別の議論だとして、その分類の前提条件として、学術的な価値の有無っていうのはわかりやすいキーワードかなと思っています。ですのでその価値を高めるために勉強するのか、別になくてもいい分野でやるのか。そこらへんをわかりやすく自分の中で整理してごちゃごちゃにしない方が、絶対に苦労しなくて済む部分が増えると思います。
ここら辺の本質の理解をする部分っていうのが、「アートリテラシー」なのかなぁと思っていて、最近は日本のアートリテラシーをどうにかしないといけないなと思い始めています。

美術/アートっていうのは本来はクラシック音楽ぐらい、一般人が評価するのが難解で必要な目だったり知識だったり経験がいるものです。クラシック○○っていうものはそのリテラシーというか分類の棲み分けが割と保持されているなぁと思うのですが、誰でも簡単にできるお絵かきからスタートしたアート派生軍というのは、庶民化した、つまり広義化したのかなと思います。

何にも美術のことを分からずに、紹介の力でアメリカのトップアートの世界に飛び込んだ20歳の頃の自分は、おかげで不必要なほどの挫折と苦悩を味わいました。
この話を通して、無駄な苦悩、努力とか恥ずかしい思いとかをしなくて済む人が増えればいいなと思っています。

Masaki Hagino
Web: http://masakihagino.com
Instagram: @masakihagino_art
twitter: @masakihaginoart