【制作裏話③】色と文化の認識の作品

【制作裏話③】色と文化の認識の作品

先週末からスタートした個展「Deconstruction of painting -絵画の脱構築-」ですが、アーティストトークをインスタライブしたりと実験的なこともありましたが、多くの方にご覧いただきながらのスタートで嬉しいです。

一個ずつ作品の制作秘話的なことを書き残しているのですが、3回目のこの記事は、一番目を引くであろう真ん中に設置してあるインスタレーションについて。

CREATION OF THE WINDS WITH THEIR COLORS

色の意味と文化背景

この作品の説明の前に、色についての話を少し。
色に対するイメージや付加価値というか、そういうものはもちろん人によって違うわけですが、大きく分けて考えてもそれぞれ国によって大きく違ったりします。

例えばセクシーな色というのは日本ではピンクですが、世界一般では紫が主流。ピンクと紫は似てるから良いけれど、アメリカ圏では青色が含まれたり、中国では黄色、スペインでは赤、フランスでは白だったりも。
歴史的背景もあったりしますが、文化形態やもしかしたら「なんとなくの定番」が定着したケースだってあります。

前回も少し話を出したけれど、高貴な色というのもありますね。王様のマントが赤と金だったり、十二単の最上級が紫だったり。これは素材の希少価値に影響を受けたりもします。金は言わずもがなで、希少価値の高い金属だし、昔のシアン系の青色はラピスラズリも粉末だったり、一個から数滴しか取れない貝や植物のエキスだったり。「そんな希少価値の高い染料をふんだんに使ってます」ということで高貴な色になったわけです。

これはもちろん宗教にも存在しています。宗教という概念が定着したのはざっくり数千年も前で、それぞれの宗教でそれぞれの色の意味があります。神道には五色旗というのがあって、中国の自然哲学からの由来で青・赤・黄・白・黒が使われていたり。

私の作品のコンセプトはざっくりいうと、主観性という部分と脳科学の部分で、「人ってそれぞれ見ているもの違うよね」ということなのだけれど、これは思考が影響していて、思考には宗教観も大きく影響しています。

そんなことから宗教と色について調べていた時に面白いなと思ったのが、ケルト文学やケルト神話でした。一神教のキリスト教とは少し違って、八百万に近くいろんなものに神聖があるというような感じ。
そしてその中で、神が定めたもので「12方角から吹く風に、それぞれ色がついている」という詩を知りました。

当時の伝承というのは吟遊詩人が主なもので、その10世紀ごろの詩集『SALTAIR NA RANN』の中の
『CREATION OF THE WINDS WITH THEIR COLORS』
というタイトルの詩を引用しました。

Medieval Irish and Colorful Winds – Geography Realm Medieval Ireland attributed a different color for each of the www.geographyrealm.com

元々はゲール語で書かれたものを、英語に翻訳されたものです。
太陽の動きや、北欧ということです日照時間が短いことなど、そういう背景があるせいなのか、北側には暗い色が多く、南側に明るい色が並びます。

風をどう表現するのか問題

10世紀頃の内容を日本でぽんっと引用するのって面白いじゃん!と思ったのはいいんだけれど、風をどう表現するのかというところに躓く。
安直に、サーキュレーター、扇風機をおいて、色付きリボンをピラピラさせるとか、扇風機そのものに色をつけるのかとか。
そしたら12個もあるわけだからコードをどうするのかとか。見栄え良く配線するのは無理があるのでそうなると舞台みたいなのを作って、穴からコードを通して配線は舞台の下でやるのかとか。充電式だったら充電をギャラリーに全部任せるのかどうかとか。

とにかく一個浮かんだアイデアに、一つずつ完成まで想像を膨らませて問題とかを虱潰しに消していく作業ばかり。うちわとか扇子だったらどうか。そしたらパタパタする装置ごと作らなきゃいけないなあとか。

でもやっぱり10世紀頃の内容を引用するんだから、その時代にない電化製品を使うのはちょっと変かもしれないと思い始めました。デザイン的なフェイルアウトというか鑑賞者がどこかに矛盾を感じたりすると必然的に作品は作家よがりに映ってしまうので、この10世紀頃のアイルランドを想起するくらいの方が装置としてインスタレーションとしては成り立っているんだろうと思いました。

じゃあ風をどう表現するのか、方角の概念をどうするのか。結局ここに戻ってきてしまった。

風見鶏とかはどうだろうか?実際の鳥型のものが12匹もいたら確かにシュールだけど…
高速道路とかにある、鯉のぼりみたいなやつとか。
あとは弓矢かなと思いました。風見鶏の種類の中で弓矢状のやつを見たことある気がする…
と思ってから考えて、アーチェリーだったり弓道だったりボウガンだったりといろいろ見てみたけれど、結局思ったのは、安直というかダイレクト過ぎるかなと思いました。

特にインスタレーションにおいて答えに近すぎる表現はあまり面白くないなと思います。例えば「脳の中を表現しています」という作品が脳の形をしていたりとか。なのでやっぱり少し遠回しに風を感じるのがいいなと思って、弓矢から今度は鳥の羽へ。

ドイツで庭でクジャクを買っているギャラリーで展示したことがあって←
クジャクの羽をもらったことがあるんだけれど、クジャクの羽とかは大きくていいかなとか。でもなんか存在感ありすぎて意味が別の方向に行きそう。

ということでこれも紆余曲折あってたどり着いたのが、ススキだった。
今山の中に住んでいることもあって、ススキが生えているのを目にするのだけれど、そよそよ風に揺らぐのが非常に自然を感じるし、アイルランドからも遠くない気がしました。
ススキだと穂の部分が少ないので、パンパスグラスの造花にすることに。

造花を着彩する

ネットで買ったパンパスグラスはそれなりにイメージ通りだったのでこのままgoサインだ。もっと高いいいやつを買った方がいいかも…とも思ったけれどそれは次回にしよう…

着彩の方法は
塗る、染める、吹くの3パターンしかない。
でもあの細い毛の部分にちゃんと色をつけるのは塗りではベタベタになったり乾燥に時間がかかってくっついたりして無理そうなので、染めるか吹く(スプレー)ってことになったんだけれど、テキスタイルアートを専攻してたとはいえ、染めは本当に大変で、しかも狙った色になるまで結構何度もやることになるのと、指定されている12色がまああああああほんとにややこしい色なので却下。
ということでスプレーだ。車用かプラモ用かがいいけどここはタミヤ様。カラーバリエーションも豊富でなんと速乾のスピードがすごかった。ベタつかずに綺麗に塗れた。困った色もあったし失敗もしたけれど。。。
そもそもパール色とか、斑色。ダークという謎の色が私を終始困らせたけれどなんとか色をこっちで決めた。

こうして中心に向かって少ししならせることで、自然界と同じようにどちらから風を受けているのかが分かるように。そして大きなエアコンの空調の風を受けてそよそよするのも計算の内だ。


固定する部分を作ったはいいんだけれど、ちょっと長時間耐えられなかったので急遽現地で補強して。土台部分は土で隠すことで重さと自然を想起させる装置の一部分にしました。

詩の参照

詩は四行詩になっていて、これが引用元。自分で日本語訳したものと一緒に。
これも台の上に載せるのか、ガラスフレームに入れるのか。譜面台のようなものにするのか。教会にありそうなものを使うか。
いろいろ考えたんだけれど、信仰していない宗教を引用させてもらったことのリスペクトを込めて、お墓をイメージしたり石碑をイメージできるように地面に設置することにしました。もっと時間とお金を掛けられるようになったら石に掘る方がいい気がします。

この作品は2/10まで大阪のKenFineArtにてご覧いただけます。

Ken Fine Art

Opening hour:
Tuesday – Friday 12:00 – 18:00
Saturday – 10:00-15:00
Close : Holiday, Sunday and Monday
*During exhibition periods

Address:
〒541-0044
大阪府大阪市中央区伏見町3-2-12
春海ビル 2F