【ドイツ美大留学】Part2 留学についてちょっと考えてみる
前回ではドイツの美大事情とアートシーンについて少し前情報を書きました。
今回は留学についての考え方について。
なぜ留学するのか
人によっていろんな理由があると思います。日本が嫌だとか、海外のアートシーンで自分の力試しをしたいとか、本場で学びたいとか。
前回でも少し話しましたが、日本のアートシーンと欧米のアートシーンのスタイルには違いがあります。別にそれがレベルの差を示しているかどうかは私が判断するところではありませんが、重要視されている部分が違うというところです。これは別に〇〇派の作品としての差が、作家としての個性としての差があるという部分の話ではなくて、作品の側面や裏面や内部の部分で、作家のアイデンティティの影響(国民性みたいなものを含む)を作品が反映している結果だと思います。もちろんそれは欧米vs日本で差があるということが言いたいわけではなく、ドイツにはドイツっぽい、アメリカはアメリカっぽい、イタリアはイタリアっぽい雰囲気が作品の中にあるものです。ただ言語的にも、距離的にも、まだ近年ようやくインターナショナルになりつつあるという状態のアジア圏よりも、例えばEUの国々と比べるとその差は顕著なんではないかなと思います。
そういった意味で海外留学というのは、詰まるところ自分のアイデンティティに、新しく海外の国々の文化を入れるという点で自分に大きな影響を与えることが目的であると言えます。それは例えば技法的にも内面的にもあなたに大きな影響を与えることでしょう。
私の場合はドイツで、本場であるドイツ哲学に触れたことが大きな変化でした。作品のコンセプトには哲学、特に美学についての考え方に大きな影響を受けました。技法的にも抽象絵画が有名だったドイツには作品にも書籍にも触れる機会が非常に多く、そして同時にドイツ国民がそれに対し知識を持っていて、共通認識や評価の目を持っている事は、作品の評価を主にドイツ人から受ける私に対して様々な影響と成長を与えてくれたと思っています。
ドイツの教育スタイル
と、銘打っても、ドイツで一つの美大での経験しかないのでこれがドイツ流だと言い切ってはいけないとは思いますが、前回でも書いたようにドイツの美大教育は日本に比べ自由だと言えます。これはドイツの教育スタイル全般に言えるかと思いますが、日本らしい上から「これはダメだ」と押さえつけて軌道修正をさせることよりも、本人が行きたい方向を尊重した上で「(根本が良い悪いは置いておいて)ならば、こうした方がもっとよくなるのではないか」という提案をしていくスタイルだと言えます。私は今所属している大学で下の学生の面倒を見る立場にありますが、
「そもそもここがよくない」という言葉を飲み込んで、相手が進みたい方向を聞いて、「ならばこのアーティストの作品や本を読むといいんではないか」という手助けの仕方をしています。技法については良い悪いがはっきりとある場合もありますので、その場合は事細かに伝えることはあります。
そしてこれも前回で記述しましたが、ドイツは表面的なクオリティよりも、内面的なコンセプトやプロセスなどのクオリティを評価します。アメリカの様なコンセプチュアルアートが強いかというとそうでもありませんが、ただ作品の中身の深さという部分が重要視されています。これはきっとドイツに限ったことではないとも思いますが…
こういった意味で、ドイツの美大でなにか凄いことを学べるかと言うと、実際はそうではありません。教授に講評を頼まなければ教授は基本的にスルーですし、自分の意を貫きたいのなら誰も止めはしません。結果的に5年間なんの成長もないままの学生も多くいる事でしょう。その一方で相性もよく、尊敬できる様な教授と出会い、講評を何度も貰って作品をよくしていく事は大いに可能です。私は今回の留学で、本当に様々なことを学べ、成長できたと思っています。そしてそれは大学で学んだことが直接的にではなく、ドイツ美大留学全体を通して自分が何をしようと思って、なにを学ぼうとしたかに依存するのではないかと思います。
なぜドイツなのか
いろんな人に、なぜドイツを選んだのか。と聞かれます。いい加減聞かれ慣れてしまったので、いつも答えるその大きな理由は
①学費が無料なこと=学生として長く安くドイツに滞在でき、学生ビザを貰える。
②世界レベルのアートマーケットが存在する事。
③アーティストが多いこと、つまりアーティストとして生活していける基盤があること。
④コンセプチュアルな部分が目立つドイツアートを学ぶため。
という点です。
私の場合これを見ると、ドイツじゃなければダメだったのか、と聞かれるとそうではなかったかも知れませんね。当時はあまり深く考えてドイツを選んだわけではなくて、好きなアーティストにドイツ人が多かったりとか、奈良美智さんをはじめ、現在またはドイツで活動していた日本人をよく目にしていたので、ドイツに行けば多くを学べ、やっていけるかも知れないという浅はかな考えがあったためです。
日本人の知人の話を聞くと、中にはドイツにしかないものを求めて来ている人も沢山います。ドイツの文化的なことや、あの大学のあの教授を求めて、など人それぞれ。そして分野によって違いがあるので、絵画を中心に考えている私に当てはまらないものもありますので、私の書いている内容だけを是非鵜呑みにしないでください。
どの大学に行くのか
そして悩む部分はこの問題でしょう。有名美大というのはドイツにもあります。Düsseldorf Kunst Akademie, Universität der Kunst Berlin, München Kunst Akademie, Leipzig などなど。そもそもですが、実はドイツは日本みたいに明確な大学のレベルというのがあまりないといってもいいでしょう。大学祭の様な年一回の大学全体の学生作品の展示会が、どの大学でも開かれますが(Jahresausstellung)、上記の大学の学生の作品たちは、レベルでいうと正直あまり差がある様に思えませんでした。有名な大学がなぜ有名なのかというと、それは教授の力が強いためです。あの教授がいるから、あそこの大学が有名という図が展開されます。そしてその有名な教授達がなぜ有名なのかというと、多くは有名な作家であるからです。有名な作家が、必ずしもいい教授だとは限りません。本人は自分の制作や活動で多忙、学生の面倒を見る時間はあまり取れない。またその教授のアドバイスは「本人が正解だと思っていること」を伝えることになりますので、結果学生の作品が「その教授の作品に似てくる」という現象が起こったりします。
実際上に挙げた大学のJahresausstellungに行き、学生の話を聞くと「教授は時間がなくてあんまり会ってない」ということを聞いたり、作品に目を向けて見ると「え…教授の作品とそっくりじゃん…」ってことは何度もありました。目の前に大きな正解が存在している(作家として大成している人の作品を近くで見ている)と、悩んでいる学生がその正解に引っ張られてしまうのはよくあることでしょう。
何が正解なのかということは、人それぞれだと思いますが、ここで一つ言える事は、大学の有名度よりも(レベルではなく)、教授との相性を優先すべきかなと思います。その教授がどういう人で、その人からどんなことを学べるのかということが重要になります。ドイツの美大は各学科少人数制。学科の教授のゼミが一年次から始まる形で、各学科教授との時間が取られるはずです。そんな中教授に時間がなく、アシスタントが生徒の面倒を見ている様な状態になっていると、もったいないなと思うわけです。
留学費用の心配
上にもありましたが、基本的にドイツの大学は学費が無料のところがほとんどです。大学によっては、外国人留学生のみ少し支払い義務があるようなところもあると思いますが、額面はすごく高いと言うことではないと思います。 生活費も都市にはよりますが、安く抑えられるはずです。美大芸大留学のための奨学金制度が、ドイツ国内そして日本国内にもいくつかありますので、まずは応募することから初めてみるのもいいかもしれません。大学の受け入れ証明書がいるケースがほとんどですが、応募の仕方などは続きの記事で。
助成金は奨学金とは少し違い、返済義務が基本的にはありません。海外での活動を視野に入れるなら、下記のような様々な助成金に応募できます。もちろん日本で活動する条件の助成金もあるので、調べてみることをお勧めします。たとえば現在私はドイツで研修(留学)をしていますが、「日本人で海外で活動している/活動予定である」という条件でも、応募できる助成金が多くあります。国によって様々な種類の助成金があり、条件も様々なので、自分の条件にあったものを選ぶことが必要です。日本の学生用の助成金や奨学金もいくつかあるはずですので、探してみてください。実は助成を受けることで知名度も上がることにもつながります。
▽「日本人で海外で活動している/活動予定である」人が応募できる助成金
文化庁 http://www.bunka.go.jp/seisaku/geijutsubunka/shinshin/kenshu/
吉田石膏美術財団 http://www.yg-artfoundation.or.jp/
公益財団法人ポーラ美術振興財団 http://www.pola-art-foundation.jp/index.html
公益財団法人野村財団 http://www.nomurafoundation.or.jp/
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