アーティスト活動のためにベルリン移住をオススメしない理由 part1

アーティスト活動のためにベルリン移住をオススメしない理由 part1

アートの街、ベルリン。今や世界的にも注目される街となりました。
もちろんそのため、数多くのアーティストがそのチャンスを求め集まる活気ある街です。

ベルリンをオススメしている人の記事は、おそらくごまんとあるので、今回僕は敢えて、ベルリンを否定的に見た記事を書こうと思うわけです。

まず初めに

批判的とも取れる記事のため、この記事を読んで頂く前にいろいろと先に説明したいことがあります。
一つはこの記事のターゲットについて。
この記事はアーティストにとってのベルリンに限って考えた際のものです。さらに言えば僕が指す「アーティスト」という人々は前回の記事にもありますが、クリエイターとして括られる人でも、趣味で作品を作っている人でもありません。グラフィックデザイナーやイラストレーター、商業写真家、そして音楽家やパフォーマンサーなどの方々も専門外ということで、除外して考えています。主に言うと、画家、彫刻家、芸術写真家あたりが範囲に含まれるかなと思っています。

次に、この記事は「アーティスト/作家 活動」においてのみの内容です。その他のフリーランサーなどの方々にとっては、ベルリンは本当にオススメできる場所です。そのくらい活気に溢れ、チャンスもいくらでもあり、生活するのに刺激がたくさんある、そんな場所です。ベルリン全てを否定する記事では決してありません。

最後に、この記事の内容は、僕だけの個人的な意見ではないということです。ドイツで作家活動をして数年、客観視して言えば中レベルの位置まで進んできました。(自分の立ち位置を測れるくらいには、という意味でも) これまで数多くのドイツ人、または移民のアーティスト、ギャラリーとこの話をして来ましたし、メディアで語られていることも考慮した上でのとっても上から目線な考察です。

ベルリンのアートシーンの現状

本題に入る前に、ベルリンの現状について軽く触れておきます。
2万人を超えるアーティスト、200を超えるギャラリー数と言われるベルリン。毎週末どこかで展示のオープニングパーティーが開かれ、年に数回Gallery Weekendと呼ばれるベルリンの主要ギャラリーがそれに向けて、それぞれ展示会を企画(Gallery Weekend参加のギャラリーマップまでも作ったり)する行事が組まれたり。またベルリンには年間を通してさまざまなレベルのアートフェアが5つほど開催されています。郊外にはアトリエも多く存在し、アーティストが切磋琢磨し住みやすい環境であるとも言えます。街全体が一体化しているようにも感じる連帯感を保ちつつ、個性的なベルリン・アートシーンを形成している。ベルリンとはそんな魅力に溢れた街です。

 

(c) Marco Funke, abc art berlin contemporary 2015

 

ベルリンに人が集まるその理由

「ベルリンの世界レベルのアートシーンを求めて」という理由の他にベルリンに人が集まる理由はなぜなのでしょうか。

ベルリンのカリスマ性

まだまだ発展途上であるが故に、とても自由でかつアンダーグラウンドなシーンを残している街。世界的なトレンドも集まり、且つベルリントレンドを作り出しているような世界が広がっています。新しいと古いが混ざり合う、刺激的な部分に多くの人が惹かれるのでしょう。

英語で生活できる街

年配の世代を除くドイツ人の多くが英語を話せることは周知だとは思いますが、普段の生活をする上で、街の中で英語が出てくるかというとほかの街ではそうではありません。ですがベルリンはほかの街と比較できないほどインターナショナルで、移民も多く、街で英語が溢れかえっています。ドイツ語を話せない状態で何年もベルリンに滞在している人もかなり多いです。移住する際のハードルが下がる大きな要因の一つかなと思います。

生活費の安さ

ベルリンはもともと旧東ドイツ側であるため、他の大都市であるハンブルク、ケルン、デュッセルドルフ、フランクフルト、ミュンヘンなどと比べてまだ家賃、物価が安いわけです。(といっても近年その人気から高騰しつつありますが…)それでも、NY、ロンドン、パリ、ミラノなどの世界的都市と比べると、かなり安く生活ができると思います。

ビザの取得のしやすさ

ドイツ国内全体的に、上に挙げた世界的大都市がある国に比べてかなりビザが取得しやすいと言えます。必要条件を満たせば半永住できるのがドイツ。そして社会保障もかなりしっかりしている国ですので、安心して簡単に長期間住めるわけです。

仲間が多い

上記のことを含め、結果的にジャンルを問わず何か目標を持ったフリーランサーが多く集まります。同志が多く横のつながりも増え、結果的にそこでまた新たなビジネスやチャンスが生まれる。そんな若い世代の移民が集まる活力に満ちた部分が、ベルリンに人が集まる多くの理由かも知れません。

 

「アーティスト活動のためにベルリン移住をおすすめしない」という言葉の意味

さて、前提はこの辺りにしておいて、そろそろ本題に。そもそもこの記事の題名はどういうことを指しているのかというと、これからベルリンを拠点にする活動のために移住をしない方がいいということです。
わかりやすく一言で言ってしまうと、

アーティスト活動のために、0からの状況でベルリンに飛び込むことは、デメリットが大きい

ということです。
これまで挙げたことを踏まえたアーティストにとってのベルリンの魅力をまとめると、
1. 世界レベルのアートシーンが広がる。
2. アーティストがのびのびと活動できる、自由な場とチャンスがある。
3. ほかのアーティストと切磋琢磨できる。横のつながりができる。
4. 展示会が多く開かれ、常にインスピレーションを受けれる、そんな場所に身を置くことができる。
5. アーティストにとって生活しやすい。(ビザ、金銭面、アトリエの確保)

といったところだと思います。

今回の記事は否定的に展開していくので、これを否定していきます。

1. 世界レベルのアートシーンが広がる → 世界レベルなのは上位の一部分だけ。
上にも書いた通りベルリンのアートシーンはとても魅力的です。世界的に見てもトップレベルな世界が広がっているベルリン。ですがその一方で、ベルリンの全体的なアートシーンのレベルは下がっていると言わざるを得ません。なぜかと言うと、ベルリンの魅力に対して、レベル問わず数多くのアーティストが世界中から集まっているからです。その数は増える一方で、2万人にも上るアーティストの中で、実際にアーティストとして生計を立てている人は上位の2%以下とも言われています。そしてそのベルリンで活躍できている数少ないアーティストたちは、必ずしもベルリンを拠点にしているわけではないということです。世界レベルのギャラリーが立ち並ぶ一方、レベルの低いギャラリーも数多く存在します。貸しギャラリーやカフェギャラリーなども多く、そしてその展示に人が集まるのも事実ですが、身内盛り上がりを見せているだけの展示会もよく目につきます。

2. アーティストがのびのびと活動できる、自由な場とチャンスがある。 → 競争率が高すぎる
たしかにベルリンにはアーティストがアトリエを構える複合施設があったり、アーティスト同士が集まるようなコミュニティもたくさんあります。ですが、前述したように2万人以上アーティストがいるベルリンでは、その環境はとっくに飽和状態です。アトリエを手に入れるのもギャラリーを探すのも一苦労。家を借りるのも運が良くないと数ヶ月もかかる。人気ゆえに難しいのが現状です。

3. ほかのアーティストと切磋琢磨できる。横のつながりができる。 → 半分正解。でも別にベルリンだけではない。
これはたしかにあるかなと思います。レベルの低いアーティストも多い中ですが、同レベルの作家たちを見つけられれば、世界が広がると思います。ですがしっかりと活動しているアーティストたちは、もちろん研究と制作に追われているわけですから、あまりそんな時間がなく、アトリエに篭って生活している人も多いのでは…というと、ドイツ全体的に見て、アーティストが多いわけですので、ベルリンにこだわる必要なこの場合ないのではないかなと思います。

4. 展示会が多く開かれ、常にインスピレーションを受けれる、そんな場所に身を置くことができる。→ ベルリンに住んでいなきゃいけないわけではない。
たしかに常にかなりの展示数があるベルリンですが、それが煩わしく感じる。というベルリン在住のアーティストも多いです。またGalleryWeekend, Gallery Art Week、大きなアートフェアへは週末ベルリンに足を運べばいい話なので、ベルリンを拠点にしなくても、情報を集められるかなと思います。

5. アーティストにとって生活しやすい。(ビザ、金銭面、アトリエの確保、英語)→ むしろしにくくなっている。
これは2の部分にも共通しますが、競争率が上がり、物価も家賃も上がりつつあるベルリン。すでに飽和状態ですので、かなり手遅れと言わざるを得ません。ビザの件は街によりますが、ドイツでのビザは他国に比べてはるかに取得しやすいのです。移民が多いので少しゆるいのは事実ですが、ベルリンだけがとび抜けているかと言われればそうではありません。

 

Part1ではこれまで表面的に見た、そして外から見たベルリンにイメージに沿った内容を元に話を進めてきました。
Part2ではもう少しアーティストに特化した内容を、深く掘り下げていこうと思います。