アートビジネスと作品の値段付けについて

アートビジネスと作品の値段付けについて

作品を販売するようになって、そしてアートマーケットに出品者として、そして観覧者としても多く顔を出すようになりました。今回はアートビジネス、また作品の値段について。なんであんな誰でも描けそうな絵が何億円もするんだろう…??
というのも、作品の値付けについてや、アートビジネスについての質問を多く頂いたからです。アートでビジネスをしたいんだけど… アーティスト支援をしたいんだけど… という方も多かったのですが、その多くの方が美術に詳しくない方、そしてその価値の見定めに困っている方が多かったので、今回はそのことを掘り下げていきましょう。

 

作品にとって、その値段とは

展示媒体にもよりますが、多くの場合ギャラリーなどで展示中の作品には値段がついています。作品の横にあるタイトルや素材がかいてあるプレートに、値段が載っていない場合でも、プライスリストというものが用意されており、展示中の値段の一覧が用意されていることがほとんどです。また美術館に展示中の企画展の作品であっても、展示中に破損や盗難があった場合として、作品の値段が作品自体に用意されているはずです。有名な作家の展示でも、どこかのギャラリーから、美術館から、個人蔵から美術館(または資金援助者)がレンタル料を払って展示会が組まれています。
美術作品にとって値段とは。これの答えはシンプルでわかりやすく作品の価値に直結していると思います。この意味をしっかりと理解していないと、アートビジネスとしても、アーティストとしても失敗しかねない、大切な考え方かなと思います。
いい作品はもちろん高い。それは想像がつきますが、自由なことがアートと認識されているように、正解がない分、なにが一体いい作品なのか。判断には困ります。

 

作品と商品

美術作品における価値とは、果たしてどういうことを指すのか。美術に携わったことのない方々からすると、これを理解するのは大変難しいんだろうな、というのがこれまでの感想です。
その価値を測るのはとても難しいと思います。なぜなら多くの場合、その価値は第三者が見定めるものであるからです。作家からすると、自分で自分の作品の価値を決めるのはとても難しい。作品の値段などについてこれまでに多くの人から質問を頂きました。

では一般市場でそのモノの値段が高いということは、そもそもどういうことでしょうか。

希少価値が高い、品質がいいなど、つまりそのクオリティが高く、クアンティティが低い(レアリティが高い)となればモノの値段は上がります。もう少し分解すると商品の値段は多くの場合…
・材料費(原材料など)
・制作費(加工代、デザイン代など)
・人件費(その商品が作られ、消費者へ届けられるまでの)
・輸送費
・広告費
といった部分を加味するでしょうか。

では、この一般商品を美術に持ってくると(例として一般的な油画)
・材料費(キャンバスと油絵の具、また筆などの道具代)
・制作費(時給?)
・人件費(ほぼ作家1人)
・輸送費(展示会場まで)
・広告費(ここがギャラリーの存在意義)

と、なってしまいます。

多くの方が、美術の価値を計れない理由の多くは、このように美術作品を商品としてしか捉えられないからだと思います。上のようにほぼ個人で成り立ってしまうのが美術商品なわけです。趣味で絵を描いている方の作品と、アーティストの作品の中を比較しても大きな差が生まれてきません。作品の価値とは一般商品と比べどこか別の部分にあるのがわかります。

そしてここに付加されるであろう大きなファクターが、ブランド力です。例えば時計やファッションブランドなんかがわかりやすいですが、素材の差があまりないにも関わらず商品の値段に大きな差があるのは、ブランド力の力が大きいわけです。下にも出てきますが、ダヴィンチやピカソなんかの絵は、スケッチだろうがなんだろうが、問答無用に高額なわけです。これは作家としてのブランド力に、価値があるからなのは言うまでもありません。

 

美術作家とは研究職

Willem de Kooning / Interchange (1995) (wikipedia より)

あんな誰にだって数時間で描けそうな絵がなんであんなに高額なんだろう。だれもが思ったことのある疑問かも知れません。こと、値段に関して言えばわからないことばかり。2017年にはダヴィンチの作品が市場最高額、約500億円で売買されました。そしてそれまでの市場最高だったのが、クーニングの『インターチェンジ』で約350億円でした。ダヴィンチは世界的にも歴史的にも有名。市場になんて滅多に出回りませんので、高額なのは納得。ですがクーニング?て、誰?という方も多いのではないでしょうか。こう言った抽象画やミニマルアートなんかが、「簡単に描けそう…」という感覚を生んでしまいがちなんだろうと思います。

美術作品をひとつ商品として以外に見るために、重要なファクターがもう一つ。美術作品とは研究結果であるということです。研究であるということを砕けていくと、美術作品の多くは「あの時代に、あのコトを、誰よりも最初にやった」ということに価値がついてきます。これはつまり技法などももちろんですが、作品の中身とそれに至った研究の部分に価値があることを示唆しています。
私がこのブログでもよく言っている、日本人作家に多いとしている、作品の技法やクオリティだけにこだわった作品があまり評価されない理由は、研究作品としての評価が薄いためだと思っています。技法に頼り、周りと同じものを(既存しているもの)量産をしていくと、工芸作品と呼ばれるものに少しずつ近づいていきます。

作品のうわべだけを見ていても作品の価値は計れないことは上でわかりました。ノーベル賞だってうわべだけ見れば、研究報告書というA4の紙に文字が印刷されているだけです。ですがその研究に何年、何十年も時間をかけて出た答え、そしてそれが今までなかった発見だった、つまり誰よりも最初だったからこその価値だったりするわけです。

 

作品の値付けについて、作家の立ち位置について

さて、話が脱線してしまいましたが、そんな歴史的な有名作品は置いておいて、現在活動している我々レベルの話に戻りましょう。つまりこの記事で何がいいたかったかの本質に入りますと、作品の値段というのは作家の立ち位置に大きく影響するということです。これまでの考察で、美術作品の基本的な価値観の考え方、そして商品と作品の違いについて少し触れてきました。過去の偉人の作品がアンティークという価値観を持つ部分を除くと、例えばドイツの世界的有名画家ゲルハルトリヒターの作品が約25億円でこの間売買されていました。存命の画家としてかなりの高額ですが、なぜ彼の作品がこんなにも高いのか。
もちろん作品のクオリティ、研究性(つまり研究によって新しいアイデア、コンセプトを持つもの)である作品の質の次に注目するべきところは、またも作家のブランド力です。リヒターまでいくとすでにかなり有名なので、ブランドとして成り立っているので、いい例ではありませんが…

例えば私の場合で言うと、ドイツのアートマーケットに進出してから4年目です。最初のアートでフェアで作品に値段をつけ、販売した際の値段と、現在の値段を比べると、約3倍になっています。この3倍で作品の質以外になにが変化したのかと言うと、自分の立っている場所が変わりました。まだ学生(院生)でありながら、そして30歳で、この作品の値段は周りと見比べて見てもかなり高い方です。この立ち位置と言うのはいくつかの事象で構成されていますが、値段が上がっていったポイントは、

作品が売れるようになったこと(需要と供給の話)と展示回数と受賞回数が増えたこと(キャリアの部分)です。

詳しく説明するまででもないですが、この二つの部分は大きかったなと思います。ギャラリーと相談して値段を決めていますが、値付けに関していうと一番上で話していた商品としての基本的な値段計算(材料費、作業時間など)=これは作品サイズにも依存します。) と、相対的な自分のキャリアからの価値を足したものです。

リヒターに話を戻すと、これまで彼が積んできたキャリアは素晴らしいものです。受賞や世界中の美術館での展示歴。ルーブル美術館での展示などはかなりのアピールになるはずです。そうして今もなおさらにキャリアを積んでいき、正しい目持った人々からの高い評価を受けられる場所へ登っていくこと。このことがアーティストとしての価値を上げ、作品としての価値を上げていく重要なファクターになっているのではないかなと思います。

 

と言った感じで、いつものように支離滅裂ではありますが、質問を多く頂いていた書きたかったことを、ババっと書き上げました!美術作品の価値について考えるいいきっかけになったでしょうか。
執筆についてのリクエストなどがあれば、コメントでぜひお寄せください!

Masaki Hagino
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