【転載】ドイツの美大が教えること、日本の美大で教えないこと

【転載】ドイツの美大が教えること、日本の美大で教えないこと

ドイツ5年目。美大に籍を置きながら、ドイツ国内外で活動を続けて見えてきたこと。そして自分にとってなにが必要なのか。私が日本を離れたからこそ見えてきた、求められること、価値観や環境の違いをお伝えしたいと思います。
(この記事は美大生向けポータルサイトPartnerにて執筆した記事です。)

ドイツへ渡ったきっかけ

 

アトリエでの制作風景 / Photo by Masaki Hagino

私の場合は、日本で学生だった頃、日本で「アート」と呼ばれているものに違和感を感じ、海外での「ART」との大きな違いに興味を持ったことが留学を考えるキッカケでした。そして、日本ではなく海外で今後もずっと長く制作を続けて行くために、現地で評価される力を身につけようと思い、留学を決意しました。
この5年、学生の間に卒業後このままドイツで活動を続けていけるような地盤を作るために、制作も展示の機会もできる限り積極的に取り組んできました。その活動の中で感じたことを今回はみなさんと考えられたらいいなと思います。

 

ドイツの美大と、日本の美大のちがい

現在私は、ドイツのBurg Giebichenstein Art Universityで絵画とテキスタイルアートを勉強しながら、作家として活動をしています。現在は契約ギャラリーに所属し、国内外のアートフェア、展示会に参加しています。

 

 日本の芸術系大学では、技法や作品の美しさなど、テクニカルな部分に重点を置かれているように思います。ですが、ドイツの大学では技法的な部分よりも、いかに自由に制作するか、常識や美意識のみに囚われない個性が重要視されているように思います。そして個性には表面的な作品のクオリティよりも、コンセプトやプロセスなどといった中身を重要視されることが多いです。作品の丁寧さや綺麗さを誇る工芸的な日本のスタイルと比べ、ドイツでは美術史や哲学や心理学、宗教観などの思想的な部分や、個人のアイデンティティーを優先するようなスタイルがよく目につきます。
 また、作品の内容を語らないほうがよいとされがちな日本ですが、ドイツでは論文やアーティストステートメントをベースとして、自分の作品について説明するプレゼンの機会がとても多いです。プレゼンでは生徒間や教授からの質問が飛び交い、意見交換を行うのが普通で、30分以上自分の作品について話すことは珍しくありません。

 

 

ドイツと日本のアートシーン、マーケットの違い。

 

ベルリンのアートフェア / Photo by Masaki Hagino
日本では貸しギャラリーが多いことから、様々な人が簡単に展示を行うことができますが、ドイツ国内には、貸しギャラリーというものがあまりメジャーではありません。ギャラリーは契約ギャラリーがほとんどで、短期長期の差はありますが、ギャラリーが選んだアーティストを一定期間契約を結んで抱えるという形です。ギャラリー側が展示会を企画、準備し、ギャラリーが持つ顧客に対して作品を紹介します。個展を開くということは、グループ展ではなく、ギャラリーが一人のアーティストをプッシュするという大きな意味と価値があるもの。日本のそれとは価値が違うものだと感じます。
ギャラリーの数はとても多く、なかでもベルリンには数百のギャラリーがあると言われるほどで、芸術に対して多くの人が興味を持っていることが伺えます。アートフェアの数も多く、一般の人からギャラリストや、コレクターまで、「作品を買う」というマーケットが層厚くしっかりあるということが日本と大きく違うところかもしれません。
また、作家が出品できるコンクールなどももちろん多く、常に制作を続けていくためのモチベーションを保てるひとつの理由です。ドイツには古い建物が多いため、少しボロいけれど自由に使える大きな部屋を安く借りられることもできます。ちょっと郊外の工場跡がごっそりアトリエになっているということもしばしば。

 

海外で何を学ぶのか。
求められるのは技法やクオリティだけではない。

前述したように、例えばドイツでは技法や表面的な綺麗さやクオリティなどだけでは評価されません。大学では座学も多く、美術史や哲学、心理学の講義がみっちりとあります。これはつまり、ドイツアートにはそれらの知識から来る考え方がとても重要だということを表しているように見えます。文化的背景なども現地で吸収していくこともとても大切だと思います。ドイツ在住の日本人でも、ドイツ語が話せないまま長い間生活をしている人も多くいますが、「多くを学ぶこと」を考えると教授や学生との会話を深めていくことや、多くの本を読むことが必要とされますので、語学を習得することは大学に入る前の第一条件だと思います。

  • ギャラリー主催のグループ展風景 in ベルリン / Photo by Masaki Hagino

 

 

自分との対話と意識改革から始まる一歩。

 

 海外で制作をしながら生活していくこと。それはただ語学と文化の違いが問題になるわけではありません。言語の面で不安が残る中、まず最初に訪れる感覚が、孤独感だと思います。一人っきりで誰も知らない場所で、制作を続けていくこと。その孤独感は、自然と自らと話す時間を生みます。自分はなにがしたいのか、どういうことを学びたいのか、アートとは何なのか、なぜ制作をするのか。自分で決めて、海外に出てきたのだからこそ、背負うものも多く、その裏には常にプレッシャーを感じるものです。その状況でどれだけ立ち止まって考えられるかということが、自分の成長、作品の成長に繋がる財産になるように思います。
 毎日休まず制作を続け、次はその作品を売り込むフェーズへ移っていきます。大学では他学科の教授にも直接連絡を取り、作品の講評を仰ぐ。コンクールや助成金に応募するためには、作品やコンセプトを説明する文章を書くことも多くあります。さらに作品集を持ってギャラリーを回る。絵を描いてる以外の時間も、展示機会を得るためにやることがたくさんあります。いろんなものを捨てて、0から新しく海外でスタートしたからこそ、自分の制作にすべての時間とお金を費やせる姿勢を身につけられたように思います。そして、土日を含め毎日
制作を続けるということが、とても大事だということを、ここに来てようやく理解できたと思っています。

 

 

今回はドイツでの制作・発表を通して見えてきた、日本のアートとの違いや生活環境の違いをお伝えしました。まだまだ途中の道のりですが、これからもこの道の上で見えてきた、様々な情報をお伝えできればと思っています。