ジュリー・メレトゥ、巨大絵画に込められた”都市と記憶”の地図

ジュリー・メレトゥ、巨大絵画に込められた”都市と記憶”の地図

現代美術の世界において、Julie Mehretu(ジュリー・メレトゥ、1970-)ほど都市の複雑性を視覚的に表現することに成功したアーティストは珍しい。エチオピア生まれのアメリカ人アーティストである彼女の巨大な抽象画は、一見すると激しい筆致による混沌とした色彩の嵐に見える。しかし、近づいて詳細を見ると、そこには建築図面、都市計画図、地図、気象図など、現代都市生活の基盤となる様々な技術的要素が緻密に組み込まれていることが分かる。彼女の作品は単なる抽象表現ではなく、現代社会における都市と記憶の関係性を探求する複合的な地図なのだ。


こんにちは、こんばんはMasaki(@masakihagino_art)です。
今回から結構な期間、更新が滞ってしまっていた、世界で注目されているコンテンポラリーアーティストの紹介記事を復活させていこうかなと思います。

世界では結構な注目度があるのに、日本語ではまだ情報が少ない作家を、海外のサイトからまとめていくので、ぜひぜひじっくり読んでみてください!
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技術図面から生まれる都市の記憶

メレトゥの制作プロセスは、都市の構造を分解し再構築することから始まる。彼女のキャンバスには、様々な都市建築の技術図面や都市効率を示す線形図、都市グリッドや気象チャートなどの要素が組み込まれている。これらの要素は、単に視覚的な装飾として使われるのではなく、都市が持つ機能性と人間の経験の間の緊張関係を表現する手段として機能している。

例えば、彼女は《Invisible Line》という作品がニューヨークの建築に対する反応として始まったが、エジプトでの出来事により変化したと述べている。「私はここでニューヨークについて作業していて、描いている最中にある出来事が展開していった。コンピューターでアル・ジャジーラを見ていて…」と語っているように、彼女の作品は制作過程で現実の政治的・社会的出来事と対話しながら変化していく有機的なプロセスを経る。

Julie MehretuFor more than two decades, Julie Mehretu (b. 1970, Addis Ababwhitney.org

この創作手法は、都市が単なる物理的空間ではなく、歴史、政治、文化、個人的体験が層状に蓄積された記憶の場であることを示している。メレトゥの絵画は、形式的で一貫した奥行きを持たず、代わりに複数の視点を活用していることで、都市体験の多層性と同時性を表現している。これは、現代人が都市を体験する際の断片化された知覚や、異なる時間軸が交錯する現代都市の特質を反映している。

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抽象表現主義とポップアートの融合による新しい視覚言語

メレトゥは大規模な抽象画で知られる現代エチオピア系アメリカ人アーティストである。抽象表現主義とポップアートの要素を融合させた彼女の作品は、Wassily Kandinsky(ワシリー・カンディンスキー、1866-1944)、Kazimir Malevich(カジミール・マレーヴィチ、1878-1935)、Piet Mondrian(ピエト・モンドリアン、1872-1944)といった20世紀の重要な画家の影響を受けている。

しかし、メレトゥの作品が単なる美術史的影響の集合体ではないことは明らかである。彼女は芸術と人類文明の歴史から新しい形式を創造し、予期しない共鳴を見出している。バビロニアの石碑から建築スケッチ、ヨーロッパの歴史画からアフリカ解放運動の場所や象徴まで、幅広い要素を取り入れている。この広範囲な参照元は、グローバル化時代の都市体験が持つ複雑性と多文化性を反映している。

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