ピエレット・ブロッホと女性抽象美術家の再発見
- 2025.09.07
- アーティスト

20世紀の抽象美術の歴史は、長らく男性作家の名前で語られてきました。
しかし、その陰にはピエレット・ブロッホをはじめとする、革新性に満ちた女性たちがいたのです。
忘れられた才能を再発見し、美術史を書き換える動きが、今、世界で加速しています。
こんにちは、こんばんはMasaki(@masakihagino_art)です。
今回から結構な期間、更新が滞ってしまっていた、世界で注目されているコンテンポラリーアーティストの紹介記事を復活させていこうかなと思います。
世界では結構な注目度があるのに、日本語ではまだ情報が少ない作家を、海外のサイトからまとめていくので、ぜひぜひじっくり読んでみてください!
また、現存作家を紹介していくので、著作権の関係で画像を直接ここに貼ったりはしない方が良いので、リンクだけまとめて行く形になります。ジャンプするのは手間かも知れませんが、そこだけご了承ください。
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はじめに
20世紀美術史において、抽象表現は最も革新的な芸術運動の一つとして位置づけられています。しかしながら、その歴史を紐解いていくと、男性アーティストの功績が前面に押し出される一方で、同等かそれ以上の才能を持った女性作家たちの存在が長らく影に隠れてきたことが明らかになります。近年、こうした状況に対する見直しが世界的に進んでおり、ピエレット・ブロッホ(Pierrette Bloch、1928-2017)をはじめとする女性抽象美術家たちの再発見と再評価が注目を集めています。
ピエレット・ブロッホという存在
ピエレット・ブロッホは、20世紀後半において最も独創的な表現を追求した作家の一人です。1928年6月16日にパリで生まれ、2017年7月7日に89歳で亡くなるまでの生涯を通じて、一貫して抽象的な表現の可能性を探求し続けました。彼女の作品は、既存の美術カテゴリーを超越した独自の美学を持ち、リズム、空間の充実と空虚、黒と白のコントラストを巧妙に操る点で特徴的でした。
ブロッホの創作手法は「反復しながらも反復しない」という独特のアプローチにありました。同一のシステムや規則を用いながらも、決して同じ作品を生み出すことのない彼女の姿勢は、抽象美術における新たな可能性を示すものでした。1950年代から抽象的な実践に向かった彼女は、絵画と彫刻の境界を曖昧にし、素材と空間との関係性を再定義していきました。
彼女の代表作の一つである《Tableaux en macramé》(マクラメのタブロー)(1970年代)では、伝統的な絵画の枠組みを超えて、編み物や結び目という日常的な技法を美術作品に昇華させました。
Pierrette BlochExhibition : “I like all tools that make lines. I know lines,www.mahj.org
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また、《Série des Croix》(十字のシリーズ)(1980年代)においては、十字形のモチーフを反復しながらも、その配置や密度の変化によって無限の表現の可能性を提示しています。
Discrete Series. Pierrette Bloch, l’amie peintre au musée SoulagesJusqu’au 19 mai 2024, Discrete Series. Pierrette Bloch,www.enrevenantdelexpo.com
女性抽象美術家の再発見運動
21世紀に入り、美術界では女性アーティストの功績を再評価する動きが加速しています。この背景には、従来の美術史が男性中心的な視点で構築されてきたという反省があります。特に抽象表現の分野においては、ワシリー・カンディンスキーやピート・モンドリアン、ジャクソン・ポロックといった男性作家の名前が真っ先に挙がる一方で、同時代に活動していた女性作家の存在は長らく軽視されてきました。
近年の重要な展覧会として、台北市立美術館での「她的抽象(彼女の抽象)」展(2019年)、ポンピドゥセンターでの「Elles font l’abstraction(彼女たちは抽象芸術を作る)」展(2021年)、そして東京国立近代美術館での「女性と抽象」展(2023年)などが挙げられます。これらの展覧会は、既存の美術史における抽象芸術の枠組み自体を問い直し、個々の背景を持つ女性アーティストによる抽象表現を再評価する重要な試みとなっています。
特に注目すべきは、スウェーデンの画家ヒルマ・アフ・クリント(Hilma af Klint, 1862-1944)の再発見です。彼女は、カンディンスキーやモンドリアンに先駆けて抽象絵画を創案したとされ、2018年のグッゲンハイム美術館での回顧展では同館史上最多となる60万人超の観客を動員しました。彼女の《Altarpiece, No. 1》(1907-1915)は、スピリチュアリズムと結びついた独特の抽象表現で、美術史の書き換えを迫る存在として位置づけられています。
Altarpieceswww.artgallery.nsw.gov.au
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