【本紹介】オススメの美術哲学の本
自粛中、読書が捗りますね!庭に椅子を出して日光を浴びながら読書をするだけで、少し元気になる気がします。
本紹介の記事が割と好評な様子ですので、こまめに挟んで行こうかなと思います。
今回は美術哲学の本をご紹介。
Philosophers on Art from Kant to the Postmodernists: A Critical Reader
Philosophers on Art from Kant to the Postmodernists: A Critical Reader
Edited by Christopher Kul-Want
COLUMBIA UNIVERSITY PRESS
(画像からリンク先に飛べます。画像の左下にあるGoogle Previewを使えば、試し読みができます。)
美術哲学の分野は、割と多岐に渡って、非常に読みにくいものだったりします。ドイツ哲学者も多く、原文を読もうと思えばドイツ語が必要ですし、ドイツ人でさえ難読なものだったりします。日本語に訳されているものでも、かなり形式張った訳なので聞いたことのない日本語がつらつら並んでいることも多いので、ドイツ語が読めない方は英語に訳されているものが一番読みやすいのかなと個人的には思います。
美術哲学とは哲学の分野の中の小さなひと部分で、哲学の考え方を美術に当てはめている、または応用している内容なので、各哲学者がそれぞれ少しずつ言及しているような場合も。そういったわけで、この本は20人の哲学者の美術的アプローチの部分をまとめている本で、非常に読みやすく、そして一度に20人分の考えを知ることができてとてもお得!
サイトの紹介文を引用させて頂くと…
Here, for the first time, Christopher Kul-Want brings together twenty-five texts on art written by twenty philosophers. Covering the Enlightenment to postmodernism, these essays draw on Continental philosophy and aesthetics, the Marxist intellectual tradition, and psychoanalytic theory, and each is accompanied by an overview and interpretation.
The volume features Martin Heidegger on Van Gogh’s shoes and the meaning of the Greek temple; Georges Bataille on Salvador Dalí’s The Lugubrious Game; Theodor W. Adorno on capitalism and collage; Walter Benjamin and Roland Barthes on the uncanny nature of photography; Sigmund Freud on Leonardo Da Vinci and his interpreters; Jacques Lacan and Julia Kristeva on the paintings of Holbein; Freud’s postmodern critic, Gilles Deleuze on the visceral paintings of Francis Bacon; and Giorgio Agamben on the twin traditions of the Duchampian ready-made and Pop Art. Kul-Want elucidates these texts with essays on aesthetics, from Hegel and Nietzsche to Badiou and Rancière, demonstrating how philosophy adopted a new orientation toward aesthetic experience and subjectivity in the wake of Kant’s powerful legacy.
(日本語訳)
クリストファー・クル=ワントは、ここに初めて20人の哲学者による芸術に関する25のテキストを集めました。啓蒙主義からポストモダニズムまでをカバーするこれらのエッセイは、大陸哲学と美学、マルクス主義の知的伝統、精神分析理論に基づいており、それぞれに概要と解釈が添えられています。
この巻では、
ゴッホの靴とギリシャ神殿の意味についてのマルティン・ハイデガー、
サルバドール・ダリの『ラグブリウス・ゲーム』についてのジョルジュ・バタイユ、
資本主義とコラージュについてのテオドール・W・アドルノなどが取り上げられています。
写真の不気味な性質についてのウォルター・ベンヤミンとロラン・バルト、
レオナルド・ダ・ヴィンチとその解釈者についてのジグムント・フロイト、
ホルベインの絵画についてのジャック・ラカンとジュリア・クリステヴァ、
フランシス・ベーコンの内臓的な絵画についてのフロイトのポストモダン批評家ジル・ドゥルーズ、
デュシャンの既製品とポップアートの双子の伝統についてのジョルジオ・アガンベン。
Kul-Wantは、ヘーゲル、ニーチェからバディユー、ランシエールに至るまでの美学に関するエッセイでこれらのテキストを解明し、カントの強力な遺産をきっかけに哲学がどのように美的経験と主観性に対する新たな方向性を採用したかを示しています。
(*訳が苦手なので、DeepL Translatorにほとんど任せました。最近知ったネット翻訳ですが、Google翻訳よりはるかにいい翻訳をしてくれますのでオススメ。)
カント、ヘーゲル、ニーチェ、フーコー、ハイデガー、フロイトなど誰もが知っている哲学者以外に、ポストモダニズムの哲学者などなど20名。私はもちろん哲学者に詳しくないので、有名どころしか名前は知りませんでしたが、本当に勉強になりますし、非常にわかりやすく説明されています。上記の説明を見れば一目瞭然ですが、それぞれの哲学者がそれぞれの美術テーマ、もしくはひとりのアーティストに絞って話を進めています。
この主観性に対する哲学的アプローチが、私の研究のメインの部分になるので、非常に参考になった本の一冊でした。
絵画空間の哲学
絵画空間の哲学―思想史の中の遠近法 (改装版)
佐藤 康邦【著】
https://amzn.to/3PhClbV
この本は、日本で学生だった頃、古本屋で偶然見つけた本でした。ドイツ哲学をベースに絵画の遠近法を、バロック、ルネサンス、印象派に渡って例を挙げ細かく解説をしています。後半はカントとヘーゲル、そして岸田劉生についての考察・解説がまとめられています。
酷評になりそうですが… 美術史と哲学を合わせてとても勉強になる本ですが、この著者の佐藤康邦さんの文章というか日本語が、とても癖があります。ドイツ哲学の日本語訳は非常に不自然で難解なのですが、この方はきっとそのような本をたくさん読まれているため、結果的にこの人の文章も非常に難解です。ひと文に句読点が少なく、非常に長く、どれが主語だったかを見失うほど。あと専門用語とか外来語が注釈なしに出てきたり、○○的という言葉を多様していて、すごく読んでいてモヤモヤします。(人格的倫理的問題とか、○○的を二重に使ったり)例文としてこちら。
…、しかしそれは即座に次のような意義をあわせ持つ。すなわちたとえばゴッホによって「自然を自分の目で見る事」を教えられ、「肉眼で見る以上の美がある事」を教えられたのであり、それは差しあたりは伝統的な権威に反抗する気持ちや新しいものへの好奇心を満足させるという意味を持ったが、やがて、それよりずっと深いもの、すなわち「芸術は宗教のようなもので興味ではない」という意識を呼び覚まされるという意味を持ったという。… P217 4行目より抜粋
すなわちたとえば…すなわち?
少し癖がありますが、読み慣れてくればかなり勉強になるので内容的には非常にオススメです。絵画の中に空間を生み出すということは、二次元上になにかを描く上で非常に重要なファクターです。「二次元の中に空間を作る」という作業は、単純に言えば錯覚等を利用したイリュージョンです。その錯覚を生み出すのは、目の構造だったり、脳科学だったり、心理学や哲学などの分野で解析されて説明されています。どうなれば人間は二次元上で空間を感じるのだろう?というのは、人間側のシステムを理解し、描写側のシステムを深化させることで様々な要素を持たせることができます。画家たちはそういった研究を、バロックの時代から絵画という二次元上で進めてきました。この本はそういった過去の偉人たちの研究を追うことで、絵画空間とは何かということを理解するのに非常に役立つように思います。
今回は美術哲学の本を2冊ご紹介しました。次の本紹介の記事は、脳科学か神経科学、もしくは心理学の絵画表現についての本を紹介できればなと思います。
オススメの本があれば皆さんも是非コメント欄で教えてください!
Masaki Hagino
Web: http://masakihagino.com
Instagram: @masakihagino_art
twitter: @masakihaginoart
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