作品売買を視野に入れないでいいアーティスト活動とは

作品売買を視野に入れないでいいアーティスト活動とは

これまでこのブログで、作品を売ることについて、アートフェアについていろいろと書いてきました。前回好評だった「何がアートで何がそうじゃないかの話」でもいろいろと取り上げましたが、何がアートとして価値があるか、ということを考える時、「売れるか売れないか」はその指標のたった一つでしかありません。

今回は売る・売らないから少し離れた部分を考えていこうと思います。

 

作品を売ることは
アーティストにとって必要なこと?

そもそも「作品を売ること」とはどういうことなのか、これまでいろいろと話して来たのでかなり重複すると思いますが、もう一度まとめようと思います。一応定義としては、クリエイターだろうがアーティストだろうが、何か作ったものを特定または不特定の相手に「これ欲しいな」と判断してもらって、主にお金と交換でその作品を買い取ってもらうことということです。
基本的な流れは、作家がモノを作ってから、

・個人売買(オンラインショップなど形態は問わず)
・ギャラリーやお店などでの展示販売
・個人型、またギャラリー型のアートフェア
・オークション
・美術館
・コンペ、コンクールの副賞として、賞金と引き換えのパブリックコレクションなどという形としての購入。

などが挙げられます。(他にもいくつか例外はあると思います。)
芸術作品というのは世界中に溢れていますので、誰かが自分の作品の購入に至ると言うことは、多かれ少なかれ「作品を評価してもらった上で」購入してもらっていることが多いと思います。ですので、作品が売れるということは、金銭面以外にも、作家にとっては喜ばしいことでしょう。

私がなぜこのブログで作品売買についての記事を多く執筆していたかと言うと、当時の自分を含めた”下層”にいる多くの作家の直近の目的は、まず展示機会を手に入れるということが多いはずです。そしてその次の目標は、その道一本で食べていけるかどうかということが目標なことが多いでしょう。副業が別にあったりすると、集中する時間も少なくなれば、作業時間も少なくなってしまうためです。
これはギャラリーにも同じことが言えて、日本のように貸しギャラリーが多くない海外のギャラリーの形態であると、ギャラリー存続のためにも、契約アーティストの作品売り上げを上げていかなければなりません。ギャラリーを大きくし、知名度を上げ、別の国に新店舗を用意したいギャラリーもあるでしょう。そう言う意味でもギャラリーは優れたアーティストを求めています。作品の売買だけをbenefitとしているいないはギャラリーによりけりだと思いますが、ビジネスである以上、優れたアーティスト=その人の作品が売れると捉えているギャラリーも多いはずです。
そういった意味でも、作品が売れるということは作品の評価に繋がり、最終的にはアーティストの評価に繋がると言えます。
ですので、もしかしたら多くの作家はいつしか売れる作品の量産に走り、展示回数(売れるチャンス)を増やして行くことが目標となってしまいます。

ですが、今回はもう少し別の世界の話をしてみようと思います。

お金が必要な
貧乏なアーティスト

お金ってそりゃ必要です。アーティストとしてやっていく上で、お金は必要。なんたってThe・不安定な職業。毎月の収入がない職業なんてそんな多くありません。展示機会を月一回手に入れるなんて大変ですし、その展示で作品が売れるかどうかはわかりません。一回の展示で500万円分くらい売れることもあれば、結局ギャラリーの取り分と税金を引いたら手元に残るのは半分以下。その後次の展示までの数ヶ月は収入0です。
普通の生活費に、保険料、アトリエの家賃に、材料費。展示代金がかかることもあれば、作品の梱包、送料、旅費。
フリーランスとして海外にいることを考えたらさらに跳ね上がる保険料に、税理士代金。ビザを手に入れるためにも販売実績(収入証明)が必要。
アフィリエイトとかで収入はばらつくけれど毎月収入が多かれ少なかれある、そんなブロガーなんかよりも不安定。海外でフリーランスビザでいると別のアルバイトにも制限がかかる。

こんな不安定な職業他にあんまりないんじゃないか?と思う、そんな我々アーティストはお金が必要。

そうなるとやはり作品を売ることで頭いっぱいになってしまうのは理解できます。これ一本で生計を立てていける人ですらほんの一握りで、それを維持して行くことの難しさみたいなこともよく感じます。でもそうやって売ることを意識しすぎてしまうと、どんどん制作が量産になって来て、アーティストというよりはクリエイターに。売るための制作、お金を稼ぐための作品。そうなってしまうと本末転倒。
売れる作品に縋ってしまうと、新しい作品が出来上がって来ません。そうなるとコンクールや助成金などにももちろん通りません。それは来年応募したって同じです。(作品の進化が見られないため)

お金の心配がいらない
アーティスト

では逆にお金の心配がいらなくなったアーティストはどういう人なのか。まず一つ目は作品が成熟してきて、展示ごとに作品が必ず売れるようになってくるということです。そうすれば作品の単価が上ってくるので、作品一つ売れれば数ヶ月分の生活費になる。ということになります。契約ギャラリーもいくつか増えて来て、作品の展示機会が増えて、一回一回の展示で最低でも数ヶ月分の生活費が手に入るようになると、年間で見れば数百万円の黒字になったりするでしょう。同じギャラリーやそのアートフェアに出続けていると、購入者からの紹介が増えたり、コレクターが増えていったりします。そういうこともあるので、展示ごとに作品が毎回売れるということは全然不思議な話ではありません。

二つ目は、少しレベルが上になりますが、もうすでに波に乗っている作家です。コンクールや助成金などの受賞が増えてくると、知名度が上がり、次々と受賞ができるようになってきます。美術館での展示ができるようになったりして、別の場所から制作・展示のサポートが入るようになってきます。

さてそうなってくるとどうなるでしょう。
もちろん研究制作などから離れた「量産」をする必要がなくなって、どんどん価値のある制作を続けていられるようになります。新しい種類の作品ができあがってきます。トライアンドエラーを繰り返すことができるので、作品もよくなってくるでしょう。大胆な作品や、売れる売れないを度外視した作品が作れるようになって来て、結果的にコンクールなどの受賞にも近付くでしょう。

 

売買から離れた
正しいアート作品とは

以前の記事でも話したことですが、売れる作品が必ずしもいい作品であるとは限りません。マーケティングがうまかっただけかも知れないし、コネクションがあっただけかも知れない。お金持ちが必ずしもアートを正しく評価できる人とも限りません。
こうして考えていると、作品の売買は、私がこのブログでよくいっている学問としてアートを研究・制作していくことから離れて行くきっかけになり得ます。個人的に言えば美術を正しく評価できる審査員や評論家、大学の教授などからの適正な評価をもらうことの方が、作品が売れることよりも価値があることです。いい評価悪い評価関係なくです。
ただ学生でもない限り、売買を意識せずにただ研究制作を続けていける場所と時間を手に入れることは非常に難しいのです。上に挙げたように、作品が売れるようになるために通ってこないといけない段階があるということです。

美術的価値が高い作品が必ずしも、売れる形態だとは限りません。
題材や、作品の大きさや、例えばパフォーマンスやインスタレーション系であれば、売買と遠い形態かも知れませんよね。

私がこれまで多く、売買に関してやアートフェアに関して記事を書いて来たのは、アーティストとしてやっていくために必要な経路だったからかなと思います。
もちろん、絶対この経路を通らないと、そこにたどり着けないと言うことは絶対にありません。自分のやりたい作品スタイルが、売買に結びつきやすい場合だってあります。早い段階に助成金や奨学金、アーティストインレジデンスなどを獲得できれば、金銭面に不安を抱かないまま、制作を続けていくうちに、高みに登っていることもあるでしょう。

 

 

ここからは個人的な話。

そんなこんなで、私はここ最近いろいろと考えていたのですが、作品が展示ごとに売れるようになって来た現状、
もっともっと研究の方に力を入れて、実験的な作品を多く作っていこうと思いました。
これまでの作品は、私は運良く「売るために」制作することはほとんどなく、量産もすることなくここまで来ました。それは自分がやりたかった研究制作が、絵画として表面的な美力も含んでいたため、購入までこぎつけることがあったというだけです。
ただ突き詰めるように研究をして来た結果、別の作品を作っていきたいという感情が増えて来ました。一つの研究を進めていると、この研究を少し別の形で活かせるかも知れないと思うようになったからです。
これまでのギャラリーと少し距離をとって、アートフェア等も今年いっぱいで少し回数を減らすようにしました。もっとインスタレーション系の絵画の模索をしていこうと思います。画家としての使命を模索しながら、新しい作品を作っていき、いろいろなところに応募をして受賞などをもっともっと意識していこうと思います。

Masaki Hagino
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