アーティスト活動のためにベルリン移住をオススメしない理由 part2
前回の記事のPart1ではこれまで表面的に見た、そして外から見たベルリンにイメージに沿った内容を元に話を進めてきました。
Part2ではもう少しアーティストに特化した内容を、深く掘り下げていこうと思います。このテーマの前書きやいろいろな前提はpart1をご一読ください。
アーティストが多い街、ベルリン。その中身。
Part1で前述した様に、ベルリンにはアーティストが2万人いると言われています。そしてそのベルリンのトップアートシーンは世界レベルであることは間違いありません。あの有名アーティストもベルリン在住。 「だから俺もそこへ行けばきっとチャンスが掴めるかも知れない!」となるのは、ちょっと待ってくれ!それは浅はかすぎる!と言いたいのがこの記事の趣旨。
ドイツ語も英語もできる上に、これまで生きて活動してきたコネクションがあるドイツ人アーティストですら、ベルリンで活躍できている人はごくごくごくわずか。もっと言えばベルリンで活躍できていているアーティストも、ベルリン在住じゃない人もとても多い。2万人もいて飽和状態なベルリン。そんな中、
「語学もコネクションもないけど、0からベルリンに飛び込んでいっちょやったる!」みたいな人はちょっとまった!
ベルリンが魅力的なのはわかります。ですのでそれを前回の記事を含めて、この記事で噛み砕いていくので、少しお付き合いください。
繰り返しになりますが、
ベルリンには世界レベルのギャラリーが多く存在します。ベルリンでアーティスト活動ができているトップアーティストも、たしかに存在します。
ですが、この上の文章の意味は、あなたの作品レベルやアーティストとしての立ち位置とは別で、
そのトップアーティストたちは、ベルリンを拠点に0からスタートして、成り上がっていった結果の人たちだけではないでしょう。
元々どこかで別の場所で名を挙げた結果、ベルリンでも活動できるため、ベルリンに移った。というケースも考慮しなければなりません。
チャンスが限られているベルリンに、そしてレベルが低いアーティストの中に、埋まってしまって出てこれないというアーティストが多いのが現状かなと思います。
英語だけで生活できるベルリン
これまでアーティストに関わらず、ベルリンで出会った移民のかなり多くが、何年もドイツに(ベルリンに)いるのにもかかわらず、ドイツ語のレベルが上がっていない人ばかりでした。これがドイツ国内での活動を制限することになり、ベルリンから抜け出せない状況を作っていると思っています。僕がドイツでこれだけ活動できている大きな理由は、早い段階から「ドイツ語ができるよう(C1レベル)になっていたから」だと思っています。精神論になるかも知れませんが、現地の言葉を話すことで、顧客やギャラリストと親密になれ、そして信頼を得られます。念密な打ち合わせや複雑な契約の話など、第二言語(英語)同士で話す会話よりも、ドイツ語で会話できてよかったと、数多くの人からも言われました。
私はベルリンに滞在していた時期もありましたが、この7年間のほとんどをベルリン以外の街で過ごしました。渡独してからドイツ語を勉強し始めたので、当時「ドイツ語をできる人を連れて来てください」「英語ではダメです」「何言ってるのかわからないので。」と電話をいきなり切られることだってありました。
「ドイツ人は英語を流暢に話せる」は半分正解で半分間違いなんです。ある年齢層を境に英語教育を受けていない人たちもいますし、もちろん学力にも大きく影響します。元々、ベルリン以外では常に英語が飛び交う様な文化ではないんです。EUであり、移民が多くインターナショナルであること、そして言語が似ていることもあり、しっかりとした英語教育がバックグラウンドがあるだけなんです。「ベルリンはドイツではない」なんて言われることもあるくらい、ベルリンのインターナショナル感はドイツでは異色なのです。大学で英語での講義あるなんてことはもちろん多いので、若い年齢層は話せるドイツ人はたしかに多いですが、大学に通っていない人もいれば、ことアーティストで言えば、アカデミックな分野から少し離れるため、しっかりとした英語教育を受けて育ったきた人の割合は下がるかなと思います。
またアーティスト活動と言えば、ギャラリーや自分の顧客だけで完成するわけではありません。コンクールの応募や作品のプレゼンなど、ドイツ語でできなければ話になりません。作品のコンセプトやこれまでの活動について、ドイツ語でインタビューを受けることや、資料をまとめたりする機会はとても多いのです。 いろんな応募要項では英語版が用意されていないことがほとんどです。
そんな中、英語が通じるベルリンで、常に英語を話しているとドイツ語力が上がらないのは、簡単に想像できます。ちょっとあなたのドイツ語、何言ってるかわかんない…というベルリン在住の日本人アーティストに何人もお会いしましたし、そしてその人たちの多くは数年後ドイツから離れていきました。ドイツ語の学習を諦めて、ベルリンで英語教室に通い始めた日本人もいました。
ベルリンで英語生活→ドイツ語力が上がらない→ベルリン以外の街で活動を試みるもドイツ語力が足りなくてベルリンにもどる→でもベルリンでの活動は飽和状態で難しすぎる→ベルリンから出たくても出られない→行き詰まった結果、帰国
という負の連鎖が止まらないわけです。もちろんベルリンでドイツ語が勉強できないと言いたいわけでも、ドイツ語ができる様になったベルリン在住日本人がいないなんてことが言いたいわけでもありません。ただそうなってしまうのが仕方がないくらい、ベルリンでは英語が通じ、話されていて、求められています。だっていくらあなたがドイツ語を話せていたって、ベルリンで出会った相手が英語しか話せなかったなんてことはよくあることなのですから。
貧しい街ベルリン?で作品販売。作品が売れない?
アーティストとして生計を立てていくこと、その多くは作品販売から成り立っているでしょう。そもそもですが、ベルリンは首都だからといって、大都会なわけではありません。歴史的な背景から見てもミュンヘン、フランクフルト、ハンブルクなどの旧西ドイツに位置していた街の方が、物価も家賃も高く、つまりは住人の所得も高いわけです。つまり富裕層が多い。アーティストの本当の生きる目的が、「作品販売」ではないことは、僕自身が声を大きくして言いたい部分ですが、食べていくため作品は売れてくれないと困ります。そして売れる売れないという部分も一つの評価軸ですので、必ずしもそうというわけではありませんが、売れる方がいいことは確かです。(別記事で少しこのことについて触れています)実際僕が参加できるような中レベルのベルリンのアートフェア群、Position Berlin, Berliener Liste では、ほかの街の同じレベルのアートフェアと比べると、作品の販売数がぐっと下がります。これは参加した多くのアーティスト、ギャラリーが口を揃えていうことですね。ほかにももっとハイレベルなアートフェアがベルリンに存在するため、その差がより目立つように感じるのが個人的な感覚です。集客力も低いのが現状です。(だいたい同じ日程で開催されることが多いためです)
そして購入相手。
僕の作品でギャラリーで大きな作品だと60−100万円くらいで販売されていますが、やはり購入者は4,50代以上の方が多いです。
ベルリンに目を向けてみると、ギャラリーや展示会に足を運び盛り上がっている人々は、若い年齢層が多いです。もちろん活発な街ですので、そういうアンテナを張り巡らせている若い人が多いわけです。インターナショナルな若い世代で賑わっているベルリン。裏を返すとつまり、一戸建てを郊外に持つ様な生活体系でもなければ、ルームシェアも多い(家が自分だけのものになっていない、小さい部屋も多い)状態の人が多いわけですので、高額な大きな作品を購入する割合を考えると、ほかの街に比べ多くないのではないかと考えられます。(あんなにも賑わいを見せているのにも関わらず、という肌感が強いですが)個人営業、フリーランサーも多いわけですので、その人たちの資産というのはおそらく次のビジネスに運ばれるでしょう。
そうすると小さい作品で低価格な作品ばかり売れていくことになり、ギャラリーにロイヤリティ(多くの場合税金を抜いた原価50%を支払う契約=(作品の値段−19%)/50% )を払ってしまうと、結局生活できるほどの収益にならない。ということになり得ます。
個人的にも、ベルリンで展示をした際、購入点数も少なく、購入者はケルンからのお客さんだったり、ミュンヘン、ケルンで展示をした場合10点ほど売れることも多いです。ベルリンのアートシーンは特殊且つ活発で目を引きますが、例えばケルンだって世界的に有名な場所でもあります。
制作時間、研究時間を確保し、集中したい、しなければならない人種がアーティストのみなさんだと思います。お金の問題で悩み不安な毎日を続け、結果バイトをして時間をうまく取れないままの作家生活はとてもストレスだろうと思います。場所を選べばきっと別の生活体系が変わるはずです。
魅力的で楽しい街、ベルリン。アーティストにそれ必要?
もう一つ、アーティストにベルリンをオススメしていない理由がこれです。なんたってベルリン、楽しすぎる。
おしゃれなものもどんどん新しく出来上がって、古いものもたくさんあって、クラブのメッカだったり、いろんな文化が混ざってて。
今までいろいろ言ってきましたが、アーティストに必要なものは作品のレベルをあげることです。そこにはたくさんのファクターがあり(また別記事で書きますね)そこには思考を重ね実験を重ね、研究を重ね、なにより制作を続けるのが大切なことです。インスピレーションを受けること、外の情報を仕入れること、そして思考材料を集めることも大切ですが、毎日必要ですか?それが活発だからという理由でベルリンに身を置く必要があるのでしょうか?大きな展示イベントや、週末ふらっといくことで事足りないのでしょうか。
ベルリンのその楽しさや魅力たっぷりな輝きは、アーティストの生活にどれくらいプラスを与えるものでしょうか。
僕は、今小さな街に住んでいますが、アトリエとその横のスーパーと、家の往復をする毎日です。街に買い物に行く、遊びにいくということはかなり少ないです。アトリエで友人には会って話しますし、飲みに誘われても1時間ほどで帰ります。そのくらい毎日の生活の基盤が、アート活動に直結するようになりました。
集中できる環境も、活動に必要なもののひとつかな、と思います。ベルリンにはものがありすぎる。結果集中できていない人が多い様に思います。
まとめ
おそらくこれを見てくれている人は、ドイツに移住を考えて、アーティスト活動をしていきたいというモチベーションを持っている方が多いと思います。そんな方々にだからこそ、一度問いたい、「ドイツに来て、作家として何をしたいのか?どうなりたいのか?」ということ。
ここで出す個人的なまとめとしては
・ベルリン以外の街でアーティスト活動を始めた方が、いいのではないか。
・そして別の街のギャラリーを通して、ベルリンで展示をする方が効率的ではないか。
・ドイツ語にどっぷり浸かれる場所で、ドイツ語をしっかり身に付けることが後々の活動に大切。
・制作、研究の生活に集中できる環境を探すべきではないか。
という感じでした。長くなってしまいましたが、誤解なく伝わっていればいいなと思います。
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